溺愛の業火

昨日のような全速力では彼に失礼と言うか、空気が悪化しそうだから、慌てずに帰り支度を始める。

「清水くん、また明日ね。バイバイ。」

よし、自然に逃げられた。
そう安心した私の手を、彼は捕らえて引き寄せる。

私は何が起こったのか理解できず、放心状態。
どうやら私はバランスを崩して、彼の腕の中ですか?

「松沢が言ったんだ。昨日の俺は攻め過ぎたって。だから。」

これは昨日より攻撃力の高い、攻めですけど!
松沢くん、どんなアドバイスをすればこんな事になるのか教えて欲しいんですけど?

抱き寄せる力が強くて、痛い訳じゃないけど逃げられないのを実感する。
彼の熱や息遣いも伝わって、何を言えばいいのかも思いつかない。

「うわぁ。清水、それはないわ~~。この件で、昨日お前と一緒に帰る約束していた俺の立場を返せ。」

見られた。
助ける風でもなく、呆れるように頭を押さえてしゃがみ込む松沢くん。

「押して駄目なら引けって言ったけど、物理的な話じゃないぞ?」

唸る様に言葉を吐き出し、清水くんを睨みつけた。
腕を引かれたのは、そんな理由ですか?

「何人もの女性に不誠実なお前のアドバイスなどと侮っていたけど、これは悪くはない。」

上からの声に視線を向けると、清水くんは幸せそうな笑顔。


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