素顔は秘密ーわたしだけのメガネくんー
ー我慢してんだよー
カミングアウトから数日後の教室は
一気に空気が変わっていた
「え〜ほんとに葵くんが彼氏とかすごいよね」
「まさかあんなイケメンだったとは…」
「でも全然そんな雰囲気出してなかったよね…今まで」
女子たちのざわざわは続いていたが
もはや誰ももう探ろうとはしなかった
全員が知ってしまったからだ
葵の素顔も
七海との関係も
それでも葵はいつも通り
“僕”の柔らかな微笑みをクラスでは保っていた
「おはよう」
「プリント配ってくれてありがとう」
「分からないとこあったら聞いてね」
優等生な仮面は相変わらず完璧
だけど周りはもう、完全にその奥を知っている
「でも葵くん、彼女にはデレデレだよね〜」
「七海ちゃん可愛いもんね〜」
友達も、わりと普通に受け入れ始めていた
七海は照れくさそうに笑いながらも
内心はずっとドキドキが止まらなかった
教室で堂々と葵の彼女として見られることの
この新しい感覚
(……隠してた頃のドキドキも楽しかったけど)
(でも今は、なんかもっと…幸せ)
そして――
放課後になると
また彼はすぐ”俺”に切り替わる
「七海、行くぞ」
低く甘い声
「うん…」
教室を出て、廊下を歩いていく
その途中も
クラスメイトたちが普通にすれ違いながらも、ちらちらと視線を送ってくる
「はぁ〜やっぱあのふたりお似合いだよね」
「いいな〜彼氏イケメンだし…」
「てか、あの甘やかされ具合見てるだけでニヤけるわ」
そういう声も普通に耳に入ってくるようになっていた
それでも葵は
余裕たっぷりに歩きながら七海の腰を引き寄せる
「……さっきからまた周りの視線、やたら感じんだよな」
七海は顔を赤くする
「だ、だって……やっぱりまだみんな驚いてるんだよ」
「まあ、俺の女だって知られたばっかだしな」
耳元でわざと低く囁いてくる
「……っ」
「七海もさ、もう少し俺に甘えていいんだぜ?」
「え、あ、甘えてるよ…!」
葵はニヤッと笑う
「俺からしたら、まだまだ足んねぇけど」
そのまま七海を壁際に軽く追い込む
「な、なに……」
「我慢してんだよ。教室じゃ手出さねぇようにな」
至近距離の甘い声
「でも放課後は別だろ?」
ゆっくりと七海の頬に手を添え
そのまま唇を重ねてくる
今までよりも
少し長く、深く
(……なにこれ、もう…)
七海の思考はまた真っ白になっていた
キスの後、そっと額を重ねながら囁かれる
「誰が見てなくても、こうしてたいだけ」
七海の胸は、もう限界なくらい高鳴っていた
***
こうして
葵と七海の関係は
“秘密”から”公認”へ完全に移り
その甘さと独占欲は
さらに深く、強く育っていった