素顔は秘密ーわたしだけのメガネくんー
第6章
ーよろしくねー
ある日の朝
「今日から新しくクラスに仲間が増えます」
担任の声に教室がざわついた
前に立ったのは
高身長で柔らかい雰囲気を纏った男子生徒
「藤堂 湊です。よろしくお願いします」
明るく爽やかな笑顔に
女子たちの反応が早速漏れ始める
「え、イケメンじゃん…」
「雰囲気良すぎる…!」
「なんか、葵くんとはまた違う感じだよね…」
七海は静かに様子を見ていた
(…すでにモテてる…早い…)
「じゃあ藤堂、七海の隣が空いてるからそこに座って」
「はい。よろしくお願いします」
まさかの隣の席
「えっと…よろしく」
「うん。七海ちゃんだよね?さっき先生に聞いた」
自然に話しかけてくる湊に
七海は少し戸惑いながらも微笑んで返した
「……よろしくね」
隣の席で小さく会話を交わしながら
七海の内心はじわじわ落ち着かなくなっていく
(…これ、葵くん…見てるよね)
もちろん、見ていた
葵はいつものように”僕”の微笑みを浮かべたまま
後ろの席からふたりの会話をじっと静かに見ていた
だが、その目の奥は
完全に”俺”の色で滲んでいた
七海の背中に
葵の視線の熱がじわじわ突き刺さっていた
***
昼休み
湊はクラスにすっかり馴染み始めていた
「そういえばさ」
湊が自然に七海へ話しかけてきた
「今日クラスのみんなからちょっと聞いたんだけどさ」
「え?」
「文化祭の時、借り物競走でかなり盛り上がったんだって?好きな人ってテーマで、すごく注目されてたって」
「え、あ、う…うん、まぁ…そういうこともあったかな」
突然その話題が出て
七海の心臓がバクバクし始める
「すごいよね。そんなお題引き当てるのも運命っぽくて羨ましいな」
さらっと褒めながら軽く笑う湊に
七海は戸惑いながらも曖昧に笑って返すしかなかった
(や、やばい…)
当然、このやり取りを
葵はすぐ後ろから静かに聞いていた
視線はずっと七海の後頭部に向いていた
葵の中で
静かに”俺”の独占欲スイッチが入り始めていく
(……なーに調子乗ってんだこいつ)
プリントを捲る手が
わずかに止まっていた
***
放課後
裏庭
七海は呼び出された瞬間から
もう予感していた
「……葵くん、怒ってる?」
ゆっくりメガネを外した葵は
目を細めながら低く笑う
「怒ってねぇよ」
低く甘い”俺”の声
「……イラついてんの」
七海はドキッと身体が震えた
「私、別に…なにもしてないよ?」
言い訳する七海に
葵はゆっくりと距離を詰めてくる
「知ってる」
そのまま
七海の腰を抱き寄せる
「……でも、俺以外の男に話しかけられてんの見ると、ムカつくわ」
耳元に低い囁きが落ちた瞬間
七海の心臓が跳ね上がる
「そ、そんなつもりじゃ…」
さらに顔が近づく
「知ってるよ」
ゆっくりと甘く深いキスを落とした
七海はもう
彼の独占欲に甘く包まれていくしかなかった
(…でも、こんな嫉妬する葵くんも、嫌いじゃない…)
むしろその甘さは
どんどん深みにハマっていく自分を感じさせていた