クマとナデシコ 博堂会次期若頭候補の熊井宗一郎は撫子さんの愛が欲しい
宗一郎からも色々と熊井邸でどんな家庭料理が出ていたかを教えてくれた。撫子も普段の自分の食生活のあれやこれやを情報交換とばかりに宗一郎に話し、お試し同棲生活五日目にして初めての手作りの夕食が終わった。
彼に言われた通りに遠慮をせず、撫子はお風呂に入る。
使ったタオルなども汚れ物用のバスケットに入っているし、出しっぱなしの物は歯ブラシセットとスキンケア用品くらいで宗一郎がきちんと管理していることが伺える。
充実した一日だったかもしれない、と肩まで湯船に浸かった撫子が一通りの寝る支度を終えてリビングに行けば宗一郎ももう寝る支度が整っているようだった。
「ね、撫子さん……あの、俺」
「いいよ」
彼が何を言いたいのかすぐに 分かった撫子は「寝間着よりバスローブのままの方が良かったかしら?」と笑いかける。
もじもじとしていた宗一郎の表情は恥ずかしさと嬉しさで少し、色づいていた。
「宗君が私にスジを通そうとしてくれているの、よく伝わって来る……そうしてくれるの、すごく嬉しい」
ありがとうね、と言う撫子をあっと言う間にリビングからさらった宗一郎はベッドに転がる前から彼女に何度も頬ずりをしていた。
「宗君、くすぐったいって」
「だって俺も、同じ気持ちだから。撫子さんはいつも俺にスジを通してくれる」
「そ、っか……ふふ、一緒か」
ベッドに寝かされ、圧し掛かられて足を絡ませ。
撫子は逃げなどしないがどうしても宗一郎の大きな愛情は彼女を覆ってしまう。
ちゅ、ちゅ、と撫子の首筋からは小さなリップ音。がさごそと彼女の寝間着を脱がそうとしている手。くすぐったくて笑ってしまっている撫子。するといともたやすく片手で背を掬われ、浮かせられてしまう宗一郎の腕の力強さに少し驚いて肩を竦めればブラジャーの肩紐をさっと下ろされて。
こうして曝け出すのは恥ずかしいが宗一郎は優しく扱ってくれる。
大きな手のひらで撫でて貰うと気持ちがいい。お風呂から上がって身に着けたばかりの寝間着や下着は脱がされ、宗一郎もまた上に着ていた肌着を脱いでしまった。
そんな彼の皮膚に入れ墨は一つもない。その代わりと言える程の発達した筋肉が彼にはあった。
「ああ、撫子さんもう真っ赤だ」
どこが、とは直接的には言わないが性的と言うよりは純粋に嬉しそうな言い方をするのが宗一郎。大きな手のひらはさらに撫子がひくりと反応する場所を探そうと肌を撫でる。
「撫子さんはこことかも、好き?」
指で、胸の輪郭を撫でられる。
宗一郎に囲われて耳元で囁かれながら、ひとつひとつを確かめるように愛撫を施され、呼吸とともに小さく喘いでいた撫子はもじもじと太ももを閉じようとするが宗一郎は許してくれない。
「閉じちゃ駄目」
彼の甘えと屈服の狭間の言葉。
そのうっとりとした声音はどちらとも取れるが……撫子は気づく。これは後者かもしれない、と。自分の知る『宗君』ではなく、これはどちらかと言うと『あの熊井組の倅』としての宗一郎の方。
欲情が彼の紳士的な自制心を緩めたの、か。
「そ、う、くん……」
「もう大丈夫そうかな。ふふ、ちょっと待ってて」
ヘッドボードにいつも置いてあるな、と思った宗一郎のポーチ。身だしなみ用だと思ったがどうやらその中にはスキンが入っていたのだと撫子はここで初めて知る。
パッケージを開きながら「撫子さんと本当は毎日でもシたくて、昨日なんて……」と言い出してしまう。
「こんなんじゃ盛ってるガキみたいですよね。恥ずかしいですが……ほんと、俺はこらえ性のないガキで」
また、だ。
またしても“夜の”宗一郎の様子が変わる。
「撫子さんは綺麗だな……ずっとずっと、みんなの高嶺の花だ」
だけど、とぼそりと言った言葉の続きは撫子には届かなかった。それは撫子が慣れない質量に息を詰まらせてしまったから。それからも宗一郎はスローペースではあったが自分よりうんと華奢な体を捕まえ続けていた。
「ん、ふふ……撫子さん、気持ち良いですね。撫子さんは痛くない?ここ、苦しくない?」
く、と指先で臍の下を撫でられただけなのに腹がざわつく。
そのざわつきは足の先まで広がって、撫子は爪先をきゅうと丸めてしまった。
「撫子さん、俺の目を見て」
「え……っ」
「逸らさないで……ん゛、そう。俺のこと見ながら――」
「そんな、の、出来な、っ」
色々と大きい宗一郎を受け入れるだけで精一杯なのに。
彼は「しょうがないなあ」と言いながら成人女性の体重などあって無いように撫子の背中を両腕で掬いあげた。自らの腕で体を密着させるように仕向けるとそのまま愛し始める。
「好き、好きです……もっともっと、俺の知らない撫子さんを見せて?ね?俺、なんでも知りたい」
彼の言葉に偽りはない。器用に抱き締めながら体を屈めて狙い撃ちをしてくるせいで今までに無い快楽の波が押し寄せる。
宗一郎の質量に全部を擦りあげられて、それが全て快楽になっていた。
「出していいよ」
男女の睦言が逆転していた。
いつの間にか撫子の腰は絶対に逃げられないように抱かれ、滲み出してしまいそうなほどの快楽に従順になることを宗一郎に肯定され続ける。
信じられないような痙攣と、悲鳴をあげる寸前のあまりにも過激で激しい行為。
終わりが訪れても耐えきれず、はく、はく、と呼吸をする撫子はだらりと腕も足も投げ出して、白みかけた意識をなんとか現実に引き戻そうと試みる。
これは流石に浴びないと、と思える頃には宗一郎がまたあたふたとしていた。そんな彼を視界の端に入れつつ、体を引きずるように起こしてみればまだ重い感覚や衝撃の余韻が残っている。
そのじりじりとした淡い痛みのようなものがどうしてだろうか……撫子の心の奥にまで及んでしまっていた。
(宗君、は……今みたいに危ういところがある、けど……たぶん、私のこと……確実に見抜いてる。多少強引なことを仕掛けないと私は……)
だとしたら流石に落ち込む、と素のままの体を横にした撫子は自分が宗一郎にあと一歩のところで心を開いていない事を知られているのだと悟る。だから、感情が緩くなるこのセックスと言う行為の最中に彼の本音が行動として強く出てしまうのだ。
宗一郎は自分の父親が舌を巻くような熊井の血筋。年下だからと決して侮ってはいけないし、なにより彼にそんな無礼な真似はしたくない。
自分が日常生活の部分で宗一郎を知ろうとするように、彼もまた深い夜の営みの中で滾る血に任せて無意識のうちに撫子の本心を探り、暴こうと――。