血でつながる恋がある〜この痛みごと、好きだと思った〜
12話 あなたのそばで、生きていきたい
ゼアルの家へ向かう道中、ソワソワして落ち着かなかった。意味もなくキョロキョロしたり、服のシワを伸ばしたりして、カミーユから笑われた。
「そんなに緊張する?」
「う、うん。10日以上会えてなかったし……。
それにもし、ドアを閉められたらと思うと……」
「まぁ、あいつも君の気持ちは知ってるから、蔑ろにはしないと思うよ」
やっとゼアルの家に辿り着いた。ここまで来るのに何年もかかったような気分だ。
と、同時に気まずさもよみがえってきて、ドアすら直視できなくなった。
「ど、どうしよう。どんな顔して会ったら……」
「言ったじゃないか。とびきりの笑顔だよ」
軽く言うと、カミーユはドアをノックしてしまった。
ガチャリと鍵を外す音が聞こえ、ずっと会いたかった顔がドアから覗く。
「カミーユ、と――」
ゼアルの顔を見た瞬間、胸がいっぱいになって、緊張も不安も何もかも吹き飛ぶ。 気がつけば彼の胸に飛び込んでいた。
「ゼアルッ」
「わぉ、大胆」
「リ、リィス……恥ずかしいから、せめて中に入ってからな?」
カミーユのからかいを受けてか、戸惑った声でゼアルが言う。久しぶりの優しい声に、腕に力が入る。
「リィス……まだ外だから……」
「ははははっ。じゃあ、僕はお邪魔みたいだから、この辺で」
カミーユの言葉を聞いて、慌ててゼアルから離れた。
改めてお礼を言いたいからだ。
「カミーユ、本当にありがとう!」
「どういたしまして。……ゼアル、大丈夫だよね?」
「ああ。もうしばらくは大丈夫だ」
「もうしばらく……?」
私からは疑問の声で、カミーユからは低く、確かめるような声で言われて、ゼアルの顔から血の気が引いた。
「す、少なくとも一月ぐらいは。また危なくなったら連絡するから、その怖い笑顔をやめてくれ、カミーユ」
「そうだと嬉しいな。約束、したもんね?」
「約束?」
「ああ……。リィスには後で話すよ」
しどろもどろに言うゼアルを見て、カミーユはゆっくりと目を細めて笑顔を作った。
「まぁ、半分は冗談だけどね。でも、本当に危なくなったら言うんだよ?」
「もちろんだ」
「うん、即答。ゼアルはちゃんとしてくれるから大丈夫だね。
じゃあ、またね」
カミーユは私達に背を向けると、そのまま去って行ってしまった。
ゼアルに軽く肩を叩かれて、見上げる。
「なに?ゼアル?」
「その、とりあえず中に入ろうか。たくさん、話したいことあるし……」
「うんっ!」
ゼアルに肩を抱かれながら歩く。嬉しくて嬉しくて、ずっと顔がニヤついてしまった。
「さて、どこで話す?上?それとも……地下室?」
「地下室がいい!」
ここよりも地下室の方が、ゆっくり落ち着いて話ができる。
間髪入れずに答えると、ゼアルは微笑んだ。
「わかった。じゃあ、行こうか」
地下室に降りると、ゼアルは背中を壁に預けて座り、私を呼ぶ。
「さ、おいで、リィス」
「へ……?い、椅子に座らないの?」
「この方が……ゆっくり話せると思ってさ。……嫌か?」
「ううんっ!そっちの方がいい!」
たまらず、ゼアルの腕に飛び込む。さっきからゼアルにくっついてばかりだ。
私が落ち着いたのを確認すると、ゼアルは重々しく口を開いた。
「リィス、本当にごめんな……。怖がらせてしまって……」
「ゼアルは悪くないよ!私の方が謝らないといけないの。ゼアルの隣にいるって言ったのに、どんなゼアルでも好きって言ったのに、離れちゃって……」
「リィス……」
ゼアルが私の頭を優しく撫でる。確認がないのは珍しいと思ったけど、
それよりも嬉しくて、恥ずかしくて、話題を変えることにした。
「そういえば、カミーユは"暴走"って言ってたけど、あれって何だったの?」
「あれは……吸血鬼の本能みたいなものだ。衝動を抑えられなくなる。
意識はあったんだ。でも、それだけで、体と口は勝手に動いてた」
「そう、だったんだ……」
赤い目のギラつきや、ゼアルらしくない言葉遣いを思い出して身震いしてしまう。それに気づいたのか、ゼアルがソっと腰に手を回して引き寄せた。
「ああ。そもそも俺は……初めてリィスを見た時からベタ惚れだったんだ。
だから、血液提供の日が来るのが、楽しみで仕方がなかった」
「全然そんなふうに見えなかったんだけど?」
思わず突っ込むと、ゼアルが照れたように顔を赤くして笑う。
「そりゃあ、必死に顔に出さないようにしてたからな」
「顔に出してくれたら、私も早く意識したのに……」
「リィスの気持ちもわからないのに、表に出す勇気はなかった……」
ゼアルは自分を落ち着かせるように一息つくと、話を続ける。
「話、戻すな?
それで、付き合い始めて、ますます気持ちを抑えるのが難しくなって。
リィスの言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ赤になった……」
「ごめんね……」
「リィスが謝ることじゃない。俺が、ちゃんと制御できるようにならないといけないんだ」
「私、もしまたゼアルが暴走しても逃げない!絶対一緒にいる!」
「リィス……」
ゼアルの顔を、目を見てハッキリと言う。もう、あんな身を引き裂かれるような思いはしたくない。
「俺も、暴走してしまわないように努めるよ。
だから……これからも一緒にいてくれるか?」
「もちろんっ!」
笑顔で答えた私にゼアルは微笑むと、額にキスを落とした。
ビックリして固まった私に、ゼアルはどこか意地悪そうな笑みを浮かべる。
「そういうところ、好きだよ。リィス」
お返しに、ゼアルの頬にキスした。さすがにビックリしたようで、ただ瞬きを繰り返している。
「私もだよ。ゼアル」
「本当に変わってるよ、君は」
ゼアルが再び抱きしめてくる。
壁にかけられた時計の「ⅻ」を知らせる黄色い光が、淡く、それでもしっかりと輝いていた。
「そんなに緊張する?」
「う、うん。10日以上会えてなかったし……。
それにもし、ドアを閉められたらと思うと……」
「まぁ、あいつも君の気持ちは知ってるから、蔑ろにはしないと思うよ」
やっとゼアルの家に辿り着いた。ここまで来るのに何年もかかったような気分だ。
と、同時に気まずさもよみがえってきて、ドアすら直視できなくなった。
「ど、どうしよう。どんな顔して会ったら……」
「言ったじゃないか。とびきりの笑顔だよ」
軽く言うと、カミーユはドアをノックしてしまった。
ガチャリと鍵を外す音が聞こえ、ずっと会いたかった顔がドアから覗く。
「カミーユ、と――」
ゼアルの顔を見た瞬間、胸がいっぱいになって、緊張も不安も何もかも吹き飛ぶ。 気がつけば彼の胸に飛び込んでいた。
「ゼアルッ」
「わぉ、大胆」
「リ、リィス……恥ずかしいから、せめて中に入ってからな?」
カミーユのからかいを受けてか、戸惑った声でゼアルが言う。久しぶりの優しい声に、腕に力が入る。
「リィス……まだ外だから……」
「ははははっ。じゃあ、僕はお邪魔みたいだから、この辺で」
カミーユの言葉を聞いて、慌ててゼアルから離れた。
改めてお礼を言いたいからだ。
「カミーユ、本当にありがとう!」
「どういたしまして。……ゼアル、大丈夫だよね?」
「ああ。もうしばらくは大丈夫だ」
「もうしばらく……?」
私からは疑問の声で、カミーユからは低く、確かめるような声で言われて、ゼアルの顔から血の気が引いた。
「す、少なくとも一月ぐらいは。また危なくなったら連絡するから、その怖い笑顔をやめてくれ、カミーユ」
「そうだと嬉しいな。約束、したもんね?」
「約束?」
「ああ……。リィスには後で話すよ」
しどろもどろに言うゼアルを見て、カミーユはゆっくりと目を細めて笑顔を作った。
「まぁ、半分は冗談だけどね。でも、本当に危なくなったら言うんだよ?」
「もちろんだ」
「うん、即答。ゼアルはちゃんとしてくれるから大丈夫だね。
じゃあ、またね」
カミーユは私達に背を向けると、そのまま去って行ってしまった。
ゼアルに軽く肩を叩かれて、見上げる。
「なに?ゼアル?」
「その、とりあえず中に入ろうか。たくさん、話したいことあるし……」
「うんっ!」
ゼアルに肩を抱かれながら歩く。嬉しくて嬉しくて、ずっと顔がニヤついてしまった。
「さて、どこで話す?上?それとも……地下室?」
「地下室がいい!」
ここよりも地下室の方が、ゆっくり落ち着いて話ができる。
間髪入れずに答えると、ゼアルは微笑んだ。
「わかった。じゃあ、行こうか」
地下室に降りると、ゼアルは背中を壁に預けて座り、私を呼ぶ。
「さ、おいで、リィス」
「へ……?い、椅子に座らないの?」
「この方が……ゆっくり話せると思ってさ。……嫌か?」
「ううんっ!そっちの方がいい!」
たまらず、ゼアルの腕に飛び込む。さっきからゼアルにくっついてばかりだ。
私が落ち着いたのを確認すると、ゼアルは重々しく口を開いた。
「リィス、本当にごめんな……。怖がらせてしまって……」
「ゼアルは悪くないよ!私の方が謝らないといけないの。ゼアルの隣にいるって言ったのに、どんなゼアルでも好きって言ったのに、離れちゃって……」
「リィス……」
ゼアルが私の頭を優しく撫でる。確認がないのは珍しいと思ったけど、
それよりも嬉しくて、恥ずかしくて、話題を変えることにした。
「そういえば、カミーユは"暴走"って言ってたけど、あれって何だったの?」
「あれは……吸血鬼の本能みたいなものだ。衝動を抑えられなくなる。
意識はあったんだ。でも、それだけで、体と口は勝手に動いてた」
「そう、だったんだ……」
赤い目のギラつきや、ゼアルらしくない言葉遣いを思い出して身震いしてしまう。それに気づいたのか、ゼアルがソっと腰に手を回して引き寄せた。
「ああ。そもそも俺は……初めてリィスを見た時からベタ惚れだったんだ。
だから、血液提供の日が来るのが、楽しみで仕方がなかった」
「全然そんなふうに見えなかったんだけど?」
思わず突っ込むと、ゼアルが照れたように顔を赤くして笑う。
「そりゃあ、必死に顔に出さないようにしてたからな」
「顔に出してくれたら、私も早く意識したのに……」
「リィスの気持ちもわからないのに、表に出す勇気はなかった……」
ゼアルは自分を落ち着かせるように一息つくと、話を続ける。
「話、戻すな?
それで、付き合い始めて、ますます気持ちを抑えるのが難しくなって。
リィスの言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ赤になった……」
「ごめんね……」
「リィスが謝ることじゃない。俺が、ちゃんと制御できるようにならないといけないんだ」
「私、もしまたゼアルが暴走しても逃げない!絶対一緒にいる!」
「リィス……」
ゼアルの顔を、目を見てハッキリと言う。もう、あんな身を引き裂かれるような思いはしたくない。
「俺も、暴走してしまわないように努めるよ。
だから……これからも一緒にいてくれるか?」
「もちろんっ!」
笑顔で答えた私にゼアルは微笑むと、額にキスを落とした。
ビックリして固まった私に、ゼアルはどこか意地悪そうな笑みを浮かべる。
「そういうところ、好きだよ。リィス」
お返しに、ゼアルの頬にキスした。さすがにビックリしたようで、ただ瞬きを繰り返している。
「私もだよ。ゼアル」
「本当に変わってるよ、君は」
ゼアルが再び抱きしめてくる。
壁にかけられた時計の「ⅻ」を知らせる黄色い光が、淡く、それでもしっかりと輝いていた。