ネオンー教えてくれたのは"大人な恋"ー


久しぶりに店の前まで来ると
胸の奥がザワザワして落ち着かなかった

今までは”お客さん”として来てた場所
でも今日はもう、前とは違う

私はもう──悠の恋人だから

 

「いらっしゃいませ」

スタッフに案内されて席に着く

店の中は、いつもと変わらない華やかさだった

だけど
その中にいる悠の姿だけは、すぐに見つかった

 

黒シャツに細いチェーン
お客さんと軽く談笑しながらも
ふと、私の姿に気付いた瞬間──

悠はほんの一瞬だけ、誰にも気づかれないくらい
わずかに優しく目を細めた

その目を見ただけで
胸の奥が熱くなる

 

少ししてから
悠が私の席にやってきた

「久しぶり」

店の中だから、あえて淡々とした声

「…うん」

私もわかってる
ここでは”いつも通り”に振る舞わなきゃいけないこと

 

「最近忙しい?」

「まあな」

「無理しないでね」

「玲那に言われると弱いな」

そう言ってわずかに笑う悠を見て
また胸がぎゅっとなる

 

──ほんとは今すぐにでも
普通に恋人として手を握りたかった

でもここは仕事場
他のお客さんの目もある

悠の指先に
他の女性のお客さんが自然に触れてくるのも目に入る

「ねえ飛悠〜今日もかっこいいねぇ」

酔った声が隣の席から聞こえてきた

私はグラスをそっと持ち上げて
無理やり笑った

──わかってる
──ここでは仕方ないってわかってる

でもやっぱり
胸の奥がジクジクと疼いてた

 

悠はそんな私の視線に気付いてたはずなのに
あえて何も言わず、プロの顔のまま席を立つ

「ちょっと回ってくる。後でな」

小さく囁いてから、悠は他の席へ移動していった

 

私はその背中を見送りながら
どうしようもなく切なくなってた

──恋人になったのに
──なのに、やっぱり私はまだ悠の全部を独占できてないんだ

そんな複雑な気持ちが
胸の奥を静かに締め付け続けてた
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