ネオンー教えてくれたのは"大人な恋"ー
それから何度か通ううちに
少しだけ、飛悠との距離は縮まったように感じてた
でも──
まだ何も始まってないのもわかってた
この日も、いつものように席に案内された
「こんばんは」
「こんばんは」
飛悠は相変わらず淡々としてる
でも、その落ち着いた声を聞くとホッとする自分がいた
「最近ほんと来るね」
「…うん」
「飽きない?」
「……飽きたら来ない」
思わずそう返していた
飛悠は少しだけ、口元を緩める
「そっか」
その笑顔が、また胸に響く
何でもない会話なのに
たったそれだけで嬉しくなる自分が、少し情けなかった
静かな間が少し続いて
思わず、私は聞いてしまった
「…彼女とかさ、本当に作らないの?」
飛悠はゆっくり視線を上げた
「作らないって決めてる」
「なんで?」
「面倒くさいから」
その答えが少し刺さった
「面倒…?」
「気を遣ったり、振り回されたり…仕事してる方が楽だからね」
「…でもさ」
言いかけて、言葉に詰まる
“私は?“なんて、そんなこと言えるわけがない
ただ一緒にいるだけで
勝手に心臓がうるさくなるのに
「…あのさ」
「ん?」
「私って…迷惑?」
思わず出た言葉に
飛悠は少し驚いた顔をした
そして、静かに首を横に振った
「迷惑じゃないよ」
「……ほんと?」
「ほんと」
そのたった一言で
心臓がまたバクバクし始めた
ただ隣に座ってるだけなのに
どうしてこんなに苦しくなるんだろう
この気持ちは、もう”お客”なんかじゃなくなってきてるのに──
少し沈黙が流れた
飛悠は静かにグラスの氷を回してる
その手の動きさえ、なんか綺麗に見えた
私はと言えば
胸の中がずっとザワザワしてた
「……さ」
小さく口を開く
「ん?」
「いつも…アフターとか、行ってるの?」
言葉に出してから、少し後悔した
でももう引き返せなかった
飛悠は少しだけ視線を泳がせたあと
またグラスに視線を落とした
「まぁ…仕事だから」
「そっか」
分かってた
当たり前のことだって
けど、その当たり前が
今はやけに胸に刺さる
──あの日の光景がまた浮かぶ
店を出た後
誰かの隣を歩いていた飛悠の姿
私はあの中の一人にもなれてないんだって
改めて突きつけられる
「でもさ」
「…ん?」
「私といる時も、仕事?」
自分でも、なに聞いてんだろって思う
けど、止められなかった
飛悠は少しだけ黙ったまま
柔らかく笑った
「そうだよ」
その笑顔が優しくて
逆に苦しくなった
「…そっか」
そう答えるのが精一杯だった
ほんとは違って欲しかったのに
私だけは、他の客とは違うって
勝手に期待してた自分が
すごく惨めに思えた
なのに
「でも──」
飛悠の声が静かに続いた
「他の子よりは…楽」
「え…?」
「余計な駆け引きとか、駄々とかないし」
一瞬、言葉に詰まった
「…それって」
「玲那は無理に媚びてこないから、正直やりやすい」
「…………」
褒められてるのか
突き放されてるのか
分からなくなった
でも、その言葉だけで
また心臓がうるさく鳴り出してた
──結局私は
あの人の一言に一喜一憂してばっかりだ
それでも
また、会いに来てしまうんだろうなって
わかってた