【サク読みAI小説】独白アイドル〜幕が降りたあとで〜【アイドル×少年×短編】
その後は滞りなく面談を終えて、外に出た。
教員室の扉をくぐってすぐ先、外階段の踊り場がいつもの喫煙所だ。

(まさか、ファンの息子を教えていたとはね)

それに、中学受験をさせるくらいの家庭を築くとは、
なかなかやるじゃん俺のファン。

タバコに火をつけると、
煙がいつもより長く空にたなびいた気がした。
ふと見上げると、高く青い空が目に入る。

少年の頃はいつも、わけの分からない全能感に満ちていた。
自分は何にでもなれるのだという感覚が、
体じゅうに満ちてどこまでも高く飛べるような気がしていた。

あの頃まわりにいた仲間たちは、
ほとんどがもうどこにいるのかもわからない。
だんだんと、名前や顔もすぐには思い出せなくなりつつある。

もうずいぶんいろんなことを忘れ、
傷もすっかり癒えた。

けど――、今でもたまに思う。
アイドルのままでいたかった。
仲間たちと、あのステージで歌い続けたかったと。

だから、タイムスリップができたらいい。
夢の中でなら、何度もしているけど。

タバコはもう半分くらいになった。

(戻らない思い出と、
燃え尽きた夢を抱えて、人は生きていくのかな)

竜崎に聞いたら、そういうもんだよと笑われそうな気がする。
塾長先生になってからも、思い通りに行かないことなんて
いくつもあった。

(パンピーやんのも、ラクじゃねえもんなぁ)

たばこを携帯灰皿にねじ込むと、
外階段を勢いよく駆け上ってくる生徒の足音が聞こえてきた。

俺はふと目を閉じる。

Born to be a king,
born to rule this world.

懐かしいフレーズが、頭の中でこだました。
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