花盗人は風流のうち

春風に誘われて

桜舞う帰り道。

入学式を終え、新生活への期待を胸に帰路に着く生徒たちを、祝福するかのように桜が吹雪いている。


「"さくら"…」


ひらひらと舞い落ちる無数の花びらを目で追っていた涼香の脳裏に、懐かしい記憶が蘇ってくる。


しかしその思い出は、今日のような晴れやかな日に思い出すには、少しばかり気の滅入る記憶だ。


思い出すまいと目を閉じた瞬間、ふわりと、何かがすぐ側を通り過ぎる気配がした。



"涼ちゃん"



驚いて周囲を見渡すも、周りは変わらず下校する生徒たちしかいない。

桜の雨が魅せた幻か、春風のいたずらか。


記憶の中の少女は、皮肉にもいつも笑っているのだった。
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