痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 ここからは百合の妄想、暴走劇である。

(あの椅子に座らされて待っている時間。横に金属のピンセットやなかなか鋭利な尖った器具が数本並んでいて、今からこれをあなたの口の中でもてあそびますよ、みたいに並べてさぁ! 変態だよ、医者じゃなくて猟奇的変質者だよ)

 医者を変態扱いしだして、だんだん百合の妄想が過激化を始める。

(歯科衛生士さんや助手さんは、笑って首を絞めてくるし)

 それは汚れ防止のために着けられるエプロンなだけでそのような意図はなく、百合の勝手なひどい迫害妄想である。

(先生は問答無用で椅子を倒して視界を奪って口も聞けなくさせるし)

 病院や医師にもよるだろうが、百合の通った歯科医院では基本視界を遮るためにフェイスタオルをかけていた。もちろんそれには治療のために患者を思う配慮がなされた行為である。飛沫や薬剤が顔に付着するのを避けるため、照明が直接目に触れないように、エトセトラ。視界を奪っている、はかなり乱暴な言い方だ。
 そして、歯科医院における治療の目的の部位は口腔内、喋れなくなるのは処置上しょうがないことで当たり前のことなのだが百合からしたらもはや治療を受けている姿勢ではない。
< 5 / 146 >

この作品をシェア

pagetop