痛くしないで!~先生と始める甘い治療は胸がドキドキしかしません!~
 とりあえず無事に痛み止めを飲むことが出来た百合は、はやく薬が効いてくることを祈りつつ倉庫へ向かった。

 これで誤魔化せて痛みが治まれば万々歳だと浅はかに思いつつ、コピー用紙を片付けている棚を開けたところで百合に声をかけてくる人物がいた。

「百合ちゃん、ごめんね。席外してて。コピー用紙取りに来てくれたって聞いて」

 同じ部署の川澄冴子(かわすみさえこ)だ。

 冴子は百合よりも五歳年上の入社当初から指導係をしてくれている今では気心のしれた良き先輩である。

「いえいえ、全然大丈夫ですよ。でもこれでストックなくなっちゃったんで注文かけないとですね。なにかほかに備品在庫足りてないのなかったですっけ?」

「事務所戻ってから一緒に確認しよっか。それより、これ」

 棚の扉を閉めて冴子の言葉に振り向いたら、にんまり微笑む冴子の手には金色の包装紙に包まれた有名ブランドのチョコレートが顔を出した。

「わ! どうしたんですか?」

「さっき営業さんにもらっちゃった。百合ちゃんもチョコ大好きでしょ? 一個だけどお裾分け」

「わぁーん、嬉しい!」

 甘いものに割と目がない百合。チョコレートはもちろん好物である。

 不思議と奥歯の痛みも感じない。薬が効いてきただけだろうが大好きなチョコを目の前にした百合にはそんなことはもう気にもならなくなっていた。

「今内緒で食べちゃおっか」

 冴子が楽しそうに笑うので百合も一緒になって笑って頷いた。
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