君と紡いだ奇跡の半年
秋の音楽祭の成功から数日後——
再び日常が戻った。
けれど、俺の身体は少しずつ、確実に変化していった。
授業中、突然視界が揺れる。
頭の奥がズキンと痛む。
(まただ……)
誰にも気づかれないように必死に耐える。
「湊? 顔色悪いよ?」
紗希が心配そうに声をかけてくる。
「ちょっと寝不足かな。大丈夫」
いつものように笑ってごまかす。
でも、この嘘もそろそろ限界が近い。
*
放課後の音楽室——
俺たちは次の曲作りに取り掛かっていた。
「この新曲さ、最後の転調どう思う?」
真が提案してくる。
「いいと思う。もっとドラマチックに盛り上がるし」
紗希も楽しそうに意見を重ねる。
その空間は、俺にとってかけがえのない場所だった。
(けど——この幸せが永遠じゃないことを、俺は知っている)
「なあ、二人とも——」
ふいに、口が勝手に動いていた。
二人が俺を見つめる。
「もしさ……もしも俺が、急にいなくなったら——」
「……湊?」
紗希の表情が曇る。
「何言ってんだよ、バカ」
真も苦笑しながら言葉を返した。
「いや、別に……今こうして音楽できてるのが、本当に奇跡みたいだなって思ってさ」
誤魔化すように笑う。
けど、心の中では叫んでいた。
(本当は……そろそろ、全部伝える時期が近づいてる)
*
その夜、再び激しい頭痛に襲われた。
意識が飛びそうになりながらも、スマホを握りしめたまま独り言を呟く。
「……まだだ。まだ、終わらせない」
額に滲む汗。
震える手で天井を見上げる。
(俺は、最後まで……この時間を守り抜く)
その想いだけが、痛みを押し返してくれていた。
*
数日後——
ついに、決断の時が来た。
「なあ……紗希、真。ちょっと大事な話があるんだ」
放課後、いつもの音楽室。
俺の声に、二人は静かに頷いた。
胸の奥が締め付けられるように苦しかった。
けど、もう逃げないと決めていた。
「俺……病気なんだ。脳腫瘍。余命半年って言われてた」
しばらく沈黙が続く。
紗希の目に涙が溢れ、真は拳を握りしめていた。
「嘘だろ……そんなの……」
「でも……今ここまで、一緒に音楽ができて、本当に幸せだった」
俺は震えそうになる声を必死に抑えた。
「……湊、なんでもっと早く言わなかったんだよ」
真が低く震えた声で呟く。
「言えなかったんだ。音楽してる時間だけは、普通のままでいたかったから」
「……バカだよ、お前は……」
紗希は涙をこぼしながらも、しっかりと俺を見つめてくれていた。
「私たちは……最後まで、一緒にいるから」
その言葉に、堪えていた涙が零れ落ちた——。