君と紡いだ奇跡の半年




 秋の音楽祭の成功から数日後——

 再び日常が戻った。

 けれど、俺の身体は少しずつ、確実に変化していった。

 授業中、突然視界が揺れる。

 頭の奥がズキンと痛む。

(まただ……)

 誰にも気づかれないように必死に耐える。

「湊? 顔色悪いよ?」

 紗希が心配そうに声をかけてくる。

「ちょっと寝不足かな。大丈夫」

 いつものように笑ってごまかす。

 でも、この嘘もそろそろ限界が近い。



 放課後の音楽室——

 俺たちは次の曲作りに取り掛かっていた。

「この新曲さ、最後の転調どう思う?」

 真が提案してくる。

「いいと思う。もっとドラマチックに盛り上がるし」

 紗希も楽しそうに意見を重ねる。

 その空間は、俺にとってかけがえのない場所だった。

(けど——この幸せが永遠じゃないことを、俺は知っている)

「なあ、二人とも——」

 ふいに、口が勝手に動いていた。

 二人が俺を見つめる。

「もしさ……もしも俺が、急にいなくなったら——」

「……湊?」

 紗希の表情が曇る。

「何言ってんだよ、バカ」

 真も苦笑しながら言葉を返した。

「いや、別に……今こうして音楽できてるのが、本当に奇跡みたいだなって思ってさ」

 誤魔化すように笑う。

 けど、心の中では叫んでいた。

(本当は……そろそろ、全部伝える時期が近づいてる)



 その夜、再び激しい頭痛に襲われた。

 意識が飛びそうになりながらも、スマホを握りしめたまま独り言を呟く。

「……まだだ。まだ、終わらせない」

 額に滲む汗。

 震える手で天井を見上げる。

(俺は、最後まで……この時間を守り抜く)

 その想いだけが、痛みを押し返してくれていた。



 数日後——

 ついに、決断の時が来た。

「なあ……紗希、真。ちょっと大事な話があるんだ」

 放課後、いつもの音楽室。

 俺の声に、二人は静かに頷いた。

 胸の奥が締め付けられるように苦しかった。

 けど、もう逃げないと決めていた。

「俺……病気なんだ。脳腫瘍。余命半年って言われてた」

 しばらく沈黙が続く。

 紗希の目に涙が溢れ、真は拳を握りしめていた。

「嘘だろ……そんなの……」

「でも……今ここまで、一緒に音楽ができて、本当に幸せだった」

 俺は震えそうになる声を必死に抑えた。

「……湊、なんでもっと早く言わなかったんだよ」

 真が低く震えた声で呟く。

「言えなかったんだ。音楽してる時間だけは、普通のままでいたかったから」

「……バカだよ、お前は……」

 紗希は涙をこぼしながらも、しっかりと俺を見つめてくれていた。

「私たちは……最後まで、一緒にいるから」

 その言葉に、堪えていた涙が零れ落ちた——。
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