結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
「つまり、俺は自由。誰と結婚しても、どこに住んでも誰にも何も言わせない」
晴れやかな笑顔を見せる湊斗に、彩奈はもう何も言えなかった。
「結婚してほしい、彩奈」
ストレートな言葉に、彩奈は面食らった。
そばにはアニメに夢中だとはいえ、海里がいる。
「え~、ママ結婚するの?」
やはり聞こえていたのか、ふたりの会話に加わってきた。
海里はさっき「パパ」という存在を知ったばかりなのに、すっかり湊斗を受け入れている。
結婚の意味がわかっているとは思えないが、まるで自分を無視するなと言っているように感じられた。
「そうだよ。パパはママと結婚したいんだ」
「パパ、してくださいでしょ」
「ああ、そうか」
「もっとかっこよくお願いしないと」
お願いと言われて、湊斗は苦笑している。
三歳児の言うかっこいいプロポーズとはどんなものなのか、湊斗にはさっぱりわからないのだろう。
「わかった、考えるよ」
「早くしてね、アニメ終わっちゃうから」
たしか、あと数分のはずだ。番組が終わるまでに考えろと息子が言いだしたのを、湊斗は真に受けている。
「至急考えるから、待ってくれ」
そう湊斗が答えているのに、もう海里は画面に夢中で食らいつくように見入っている。
彩奈は父子の様子がおかしくて、笑いが込み上げてきた。
おなかの底から笑いたくなるなんて、いつ以来だろうか。
「今すぐに、すごいの考えるさ」
言い訳のように口にしながら、その前にと湊斗が手を伸ばしてくる。
彩奈はその手を取った。ふたりの指が絡みあう。
「愛してる」
彩奈の耳元で、湊斗がささやいた。
「もう離さない。だからどこにも行くな」
その言葉と同時に、頬に唇が触れたのを感じた。
「あなたのそばにいてもいいですか?」
「もちろん」
返事をすると、軽いキスをまぶたに落とされた。
「これからずっと、一緒だよ」
次のアニメ番組が始まって、海里はまだテレビに向いたままだ。
湊斗のプロポーズの言葉を理解するのは、もっと先の話。