結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
「暴れると危ない」
そのまま階段を上がっていく。
いわゆるお姫様だっこというのは、もう少しロマンチックなものだと思うのだが、これは違う。
一段一段上がるたびにグラグラして落ちそうになるし、狭い階段や踊り場を通るには彩奈も縮こまっていなくてはならない。
(なんで⁉)
彩奈は声にならない悲鳴をあげた。
「ここか」
「は、はい」
彩奈の部屋の前に来て、やっと降ろされた。
足に負担がかからないような、ふんわりとした着地だ。
「じゃあ」
そう言って湊斗は去っていくが、その背は思った以上にたくましく見える。
「あの」
思わず彩奈は声をかけた。足を止めずに歩き去る湊斗に向かって、大きな声で「ありがとうございました」と告げる。
背を向けたまま軽く手を振ってくれたと思ったら、すぐに階段だから姿は見えなくなった。
二階の廊下から黒光りのする乗用車を見下ろすと、コンパスの長い湊斗はもう乗り込もうとしている。
(振り向いて)
彩奈自分でも気づかないうちに、そう願っていた。
その思いが通じたのか、チラリと湊斗が二階を見上げてくれたような気がする。
(気のせいかな)
もう会うこともない人に、彩奈は心の中で別れの言葉をつぶやいた。
(さようなら)