結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない


彩奈はとりわけ美しいわけでも、優秀なわけでもない。
高校時代の成績は医学部に届かなかったから医師を目指すのはあきらめて、大学では経営を学んだ。
それも実家のためになればと選んだのだが、結果として無駄になってしまった。

(とうとう、この日が来ちゃった)

彩奈はがまんしているだけだ。
相手のことをよく知りもしないのに結婚するなんて、間違っていると思う。

いつか好きな人と結ばれたいなんて子どもじみた駄々はこねたくないが、家のために二度しか会ったことのない人と結婚するのは論外だ。けれど彩奈が嫁がないと、実家の病院は経営が成り立たなくなっていくだろう。

父は院長、母は事務長として忙しく働いてきたのは知っている。それこそ彩奈のことなど放っておかれるくらいに。
実家の近くには病院が少なくて、夜間でも急患を受け入れているのは井口病院だけだ。
お年寄りや遠いところをわざわざ来てくれる患者さんのために、両親は精一杯のことをしていたはずだ。
だから井口病院を守るために、彩奈ががまんすればいいと覚悟を決めた。

ウエディングドレスを着たら、いつもより二割くらい美しくなれた気がする。
でも、その姿を見せたい人は彩菜にはいない。
学生時代、男友達と過ごすのは楽しかったけど、いつも恋人未満で終わってしまった。


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