結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない


彩奈の性格が慎重なせいかもしれない。
本気で「この人」と思えるような男性に出会っていないだけかもしれない。

でも、そんな日々も今日でおしまい。

明日からは夫になった人と、少しでもいい関係を築いていきたい。
愛しあえるかどうかは未知数だが、夫婦として信頼しあえるなら十分だ。

控室で待ちながら、彩奈はそんなことを願っていた。






まだ、彩奈に声がかからない。

さすがにおかしいと思い始めたころ、外の様子がおかしくなった。
妙にバタバタして騒がしいのだ。

そっと椅子から立ち上がって窓際まで歩いた。
晴れ渡った五月の空は、透明な青。そして陽光を浴びて新緑がまぶしいくらい輝いている。

(せめて、ジューンブライドがいいって言えばよかった)

大学の卒業式から今日まで、結婚準備で慌ただしかった。
やっと風景を見る余裕が生まれたのが結婚式の当日だなんて、彩奈はおかしくてクスッと笑ってしまった。

いきなりバタンと控室のドアが開いて、真っ青な顔をした父が飛び込んできた。

「彩奈っ」

ひとこと叫ぶなり、父は膝から崩れ落ちた。
そのままぶるぶると震えて、声も出ないようだ。

「お父さん?」

彩奈の声にも反応しない。

「どうしたの?」



彩奈が理由を知ったのは、その夜のことだった。




< 3 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop