結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
彩奈の性格が慎重なせいかもしれない。
本気で「この人」と思えるような男性に出会っていないだけかもしれない。
でも、そんな日々も今日でおしまい。
明日からは夫になった人と、少しでもいい関係を築いていきたい。
愛しあえるかどうかは未知数だが、夫婦として信頼しあえるなら十分だ。
控室で待ちながら、彩奈はそんなことを願っていた。
まだ、彩奈に声がかからない。
さすがにおかしいと思い始めたころ、外の様子がおかしくなった。
妙にバタバタして騒がしいのだ。
そっと椅子から立ち上がって窓際まで歩いた。
晴れ渡った五月の空は、透明な青。そして陽光を浴びて新緑がまぶしいくらい輝いている。
(せめて、ジューンブライドがいいって言えばよかった)
大学の卒業式から今日まで、結婚準備で慌ただしかった。
やっと風景を見る余裕が生まれたのが結婚式の当日だなんて、彩奈はおかしくてクスッと笑ってしまった。
いきなりバタンと控室のドアが開いて、真っ青な顔をした父が飛び込んできた。
「彩奈っ」
ひとこと叫ぶなり、父は膝から崩れ落ちた。
そのままぶるぶると震えて、声も出ないようだ。
「お父さん?」
彩奈の声にも反応しない。
「どうしたの?」
彩奈が理由を知ったのは、その夜のことだった。