結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
東京駅に近い大手町にある高層ビルの中に早瀬湊斗の会社はあった。
勤務初日。彩奈は人事部長に連れられて、緊張した面持ちで秘書室に向かった。
人事部長がノックしてドアを開けたら、中には誰もいない。
「困ったものだ」
人事部長は眉を寄せている。まだ若そうなのに、眉間には縦皺が寄っている。
「ここは忙しい部署でね。山本室長が主に早瀬社長のサポート、人見主任が村上副社長についているんだ」
「ほかの方は」
「若手の男性社員がひとりいるが、女性は長続きしなくてね」
ぼやくように人事部長が教えてくれたが、どうして長続きしないのだろう。
「エクセレント誠から紹介される秘書は優秀だと聞いているから、期待しています」
「ありがとうございます。ところで、私はなにをすればよろしいですか」
誰もいないのだから、指示がほしかった。その時、若い男性社員が飛び込んできた。
「あ、部長」
「相変わらず君は慌ただしいね」
「すみません、急に会議の準備が入って」
ハア~とため息をつきながら部長が彩奈を紹介してくれた。
「今日からこちらに配属になった井口彩奈さんだ」
「井口です。よろしくお願いします」
「助かった。田頭です、よろしく! 早速だけど、この資料まとめるの手伝って」
ばさりと手渡された文書を、どうやら急いでまとめなくてはいけないらしい。
「君の席はここ、パソコンのパスワードは」
たたみかけるように田頭は伝えてくるので、彩奈も大急ぎでメモをとる。
入力しているうちに、人事部長の姿は消えていた。