結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない



山本が不在でも、秘書室の仕事はスムーズに進んでいた。
だが湊斗の出張が予定されている日に、山本の父親の手術が行われることになった。

十時間はかかる大手術とあって山本は東京に残り、かわりに同行するのは彩奈に決まった。

今回は長崎への出張だ。飛行機、ホテル、移動時間、あれこれ考えて彩奈はパニックになりそうだった。

最近は日本国内でもМ&Aが増加傾向にあるが、それにつれて悪徳な会社も横行している。
不当な手段を使っていたり、売り手側の不利になるような契約を結んだりするようだ。
おまけに資産を譲渡させてうえで、肝心の事業を放置する会社もあると聞く。

今回はそんな被害にあった中堅造船会社を救済してという依頼があった。
九州の地方銀行からだが、造船所を再起させないと融資が焦げつく可能性があるという。
かなりの額だから、銀行にとって不良債権を抱えるのは大きなリスクになる。そこで湊斗に助けを求めてきたのだ。

難しい案件だが、社内でも「うちの社長らしい」「みすみす倒産するのを放っておけなかったんだろう」とうわさされていた。
この案件を成功させれば、また早瀬М&Aパートナーズは大きく飛躍するはずだ。

仕事の内容はともかく、彩奈にとっては心臓が飛び出しそうな出張だ。
なにしろ長崎に二泊する予定だから、ホテルの部屋は別々とはいえ朝から晩まで一緒に行動することになるからだ。

「すまない、私にも別の仕事があるから君が頼りなんだ。困ったらすぐに連絡してくれ」

人見主任は自分が行けなくて申し訳ないと、彩奈にとても気を使ってくれる。

「井口さんなら大丈夫だよ」

田頭は簡単に言ってくれるが、出張が決まった日から出発当日まで彩奈は眠れない夜が続いた。



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