結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
式の打ち合わせをしたくても「仕事が忙しい」「出張がある」と言われて、徹と会う機会はなかった。
彩奈も無理をしてまで会いたいとは思っていなかったが、それが間違いだったのかもしれない。
政略結婚の相手に裏切られたとはいえ、二度しか会っていないのだから何の感情もわいてこない。
彩奈はただむなしかった。
(どうしてこんなことに……)
家のためにと覚悟を決めていたのに、あっさりと覆されたのだ。
突然の破談は、彩奈の心にぽっかりと穴を開けていた。
それほど嫌なら断ってくれてよかったのにと思ったり、好きな人がいるのに縁談を無理強いしたのではと申し訳なかったりして心が揺れた。
なにより、がまんして結婚しようとしていた自分が許せなかった。
(はっきり嫌だと言えばよかった)
情報をシャットダウンしていた彩奈に周囲も気を使ってくれたからか、徹の恋人の名まえすら知らないままだ。
突然の結婚に守屋家はうろたえるばかりだし、彩奈の両親もがっくりと肩を落としたままだ。
無理に結婚を勧めた結果がこれだから、気落ちしたのだろう。
相手側からは弁護士を立ててきたので、こちらも弁護士に頼んでいくつか取り決めをした。
大切なのは井口病院を援助する契約は続行することだ。名前はそのままに、守屋総合病院の分院となった。
彩奈には慰謝料が支払われるが、結婚自体をなかったことする。だから今後この件について口にしないこと。
徹の恋人はどこかのご令嬢だったらしく、親に黙って結婚したと聞いた。これはかなりの醜聞になる。
マスコミに話さないよう、彩奈は法的な強制力はないが念書にまで署名させられた。
もちろん結婚式に出席する予定だった親族にも、情報を漏らさないよう厳しく通達されたはずだ。