結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない



結婚しなくてよくなったのだから喜んでいいはずなのに、彩奈の気持ちは晴れなかった。

弁護士によると徹はほとぼりが冷めるまで、会社を辞めて海外に行くそうだ。留学という形にして、世間体を取り繕うのだろう。
相手の女性も一緒に行くらしいが、彩奈はそれ以上は聞かないことにした。知りたくもないし、今の彩奈には何の意味もないからだ。

両家の話がまとまると、彩奈は実家を出た。
破談になったからといって両親のそばでのんびりと暮らす気にはなれなかったし、一日でも早く結婚が決まる前に戻って人生をやり直したかった。

家を出て、コンビニの近くにある二階建てのコーポを借りた。
彩奈に支払われた慰謝料は井口病院が抱えていた借金の返済に充ててもらったから、手元にはほとんど残っていない。
ひとり暮らしをスタートさせるのに、あまりぜいたくはできない。
お嬢様育ちの彩奈は家事などあまりしたことがなかったが、その気になればなんとかなるものだ。
狭いコーポの掃除とひとり分の洗濯、それに食事の支度くらいなら、あっという間に片付く。

就職はすでに辞退していたので、暮らしていくために昼間はコンビニ、夕方からは池袋にあるコールセンターでほぼ毎日働いている。

もともと彩奈はおしゃべりなタイプではなかったが、今回のことで世間のことを少し学んだ。
弁護士や不動産屋と接して、相手に自分の考えをきちんと伝えられるかどうかはとても大切だと気がついた。

だからコンビニでお客さんと話したり、コールセンターで化粧品や健康食品の注文を受け付けたりするアルバイトを選んだ。
あえて苦手な世界に飛び込んでみたが、やっと人と話すことにも慣れてきた。
そろそろ二度目の就活に望まなくてはいけない。
彩奈は学生時代から秘書を目指していたので、この秋に国際秘書検定のプライマリー試験をうけるつもりだ。

アルバイトと勉強で忙しくすることで、彩奈は結婚式のことを早く忘れたかった。



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