結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない


きっと湊斗を信じられなくなったのだ。
彩奈の口から真実を聞く前に、恋人にしたいと望んでしまった自分を呪った。

理性より独占欲が先行した結果がこれだ。

(自業自得だ)

休みが明けてからも、彩奈は姿を見せなかった。
それどころか急病だからと、ピンチヒッターとしてエクセレント誠の社長がやってきた。
十分すぎる補填に、何も言うことはない。
さすがに完ぺきな仕事ぶりに、秘書室の空気も引きしまったようだった。

井上に彩奈の自宅の様子を見てもらったら、引っ越したあとだった。
突然の成り行きに、井上も驚いていた。
どうやら義母に尋ねられるがまま、湊斗の秘書として優秀だと井口彩奈の名を出してしまったらしい。

「こんなことになってしまって、申し訳ございません」

梨乃が結婚した相手と彩奈が婚約していたなんて、誰も知らなかったのだから無理もない。
辞表を出そうとする井上をなだめ、それからも仕事を続けてもらっている。

(彩奈)

これは執着だろうか。
どうしても彩奈の存在が、湊斗の心から消えない。

だから、湊斗の心の中では時間が止まってしまっている。
彩奈の存在を忘れたくなくて、自ら止めているのかもしれない。

(会いたい)

だが、会えるはずもない。
過去にどんな事実があったとしても、梨乃の異母兄だというだけで彩奈は湊斗を避けるだろう。
もう二度と、彩奈を傷つけるわけにはいかない。湊斗の独占欲で傷つけたくない。
この思いだけが、湊と彩奈を繋いでいた。




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