結婚式の日に裏切られた花嫁は、新しい恋に戸惑いを隠せない
井口病院の経営が思わしくなくなったとき、守屋総合病院から手を差し伸べられた。
傘下に入って分院となれば、借金を返済してもらえる。井口病院の名前は残して、このまま診療を続けられる。
ただし契約代わりに、院長の息子と彩奈を結婚させる。
それは願ってもない話だったが、同時に彩奈を犠牲にして成り立つものだった。
彩奈の両親は病院を守ることを選んだ。それが医師として正しい道だと信じていたし、彩奈も裕福な守屋家の一員なら幸せになれると思い込んだ。いや、思い込もうとした。
あとから考えると親のエゴでしかないのだが、すべて彩奈に押しつけてしまった。
「彩奈に、とても辛い思いをさせ、後悔しています。早瀬様にも、知らなかったとはいえ、申し訳ござ……」
「あれは、梨乃たちが悪かったんです」
謝ろうとする父親を、湊斗は止めた。どう考えても、井口家に非はない。
梨乃は勝手に家を出て、守屋徹と結婚したのだ。しかも親にも黙っていた関係だ。
親たちの世代から見れば、異母妹のしたことは常識では考えられない行動だろう。
結婚する予定だった井口家のことも、守屋総合病院と提携することも無視したのだ。
守屋徹と梨乃は、自分たちのことしか考えずにやってしまった。
「彩奈はあの日、教会で、待ち続けていました」
たった二度しか会ったことがない相手だったが、嫁ぐ覚悟を決めて何時間も待っていたという。
「私どもは、梨乃さんの名前すら、聞かないようにしていました」
結婚式の日に裏切った相手の恋人の名など、知りたくもなかっただろう。
彩奈も事実から目を背けていたはずだと、父親は言う。
やはり彩奈と湊斗が出会ったのは偶然だった。
徹と結婚した女性の名前や年齢など知らないから、彩奈は堂々と早瀬М&Aパートナーズにやって来たのだ。