黒兎の相棒は総長でも止められない

口が悪いのは誰のせい






その日、私はちょっと遅くまで学校に残っていた。

プリント整理をしてたら意外と時間が経ってしまって、帰る頃にはすっかり空が暗くなっていた。

 

(……やっぱ遅くなると少し怖いな)

 

商店街を抜けて、裏道に入る。
こっちの方が家まで早いからいつも使ってる道。

でも今日はやけに静かだった。

 

足早に歩いてたその時だった。

ガツッ

 

「――あっ」

 

誰かと肩がぶつかった。
思わず後ろに下がると、数人の男たちが目の前に立っていた。

 

「おい」

 

低い声が響く。

私はすぐに「すみません」と頭を下げようとしたけど、男たちは道を塞ぐように立ち塞がったままだった。

 

「え、なんか可愛い子じゃん」

「ひとり?こんなとこで何してんの?」

「この辺にこんな子いたんだ?」

 

ニヤニヤとした目線が私を上下に舐めるように見てくる。

背筋がぞわっとして、思わず一歩後ろに下がった。

 

「すみません、通ります」

 

「えー、冷たいなぁ。ちょっとくらい話そうよ?」

 

男たちはじりじりと距離を詰めてくる。

 

「ほんとに、やめてくれませんか」

 

言葉を強めると、男の表情が少し変わった。

 

「へえ…意外と強気?」

「可愛い顔してそういうとこあるんだ?」

 

男たちの空気がピリピリし始める。

 

(やばい…)

 

焦りが募って、でも言葉だけは止まらなかった。

 

「…いい加減にしてください。本当に迷惑です」

 

一瞬、空気が重くなる。

男たちがにやりと笑った。

 

「ちょっと口悪いんじゃない?」

「感じ悪いよね?」

 

(しまった…言いすぎた…)

 

心臓がドクドクしてきた。

身体が固まって動けない。

 

――その時だった。

 

「おい――、何やってんだ」

 

低く静かな声が背後から響いた。

その瞬間、空気が一気に変わった。

 

振り向くと、鷹宮凪くんが無表情のままこちらに歩いてきていた。

 

男たちがピクリと肩を震わせる。

 

「なんだ?」

「知り合い?」

 

凪くんはポケットに手を入れたまま、ゆっくりと目線を男たちに向ける。

 

「離れろ」

 

短く静かな声なのに、妙に迫力がある。

 

「あ?関係ねえだろ」

 




「今すぐ消えろ」

 

凪くんの声は少しも揺れない。
男たちは視線を合わせるのを避けるように後退りを始めた。

 

「……チッ、もういいわ。行こうぜ」

「くだらねぇ……」

 

ぼそぼそと捨て台詞を吐きながら、男たちはその場から去っていった。

 

私は一気に肩の力が抜けて、その場に立ち尽くしてしまう。

凪くんは無表情のまま、私に視線を戻した。

 

「……お前さ、ちゃんと助け呼べよ」

 

「……うん……ごめん」

 

凪くんは小さくため息をついた。

 

「それにしても、わりと強気だったな」

 

「え…」

 

「普通なら黙って逃げる場面だぞ」

 

私は顔を赤くしながら、思わず口を尖らせる。

 

「だって…あんなのにヘラヘラできないし…」

 

凪くんは小さく笑った。

 


 

「お前、話し方まで兄貴に似てんだな」

 

「え!?そ、そんなことないし!」

 

「いやあるね。だいぶ言い方キツかったぞ?」

 

「……知らないよ…」

 

凪くんは苦笑しながら、いつもの淡々とした声に戻る。

 

「乗れ。送ってく」

 

私は少しだけ緊張が残ったまま、車の方へ向かった。


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