黒兎の相棒は総長でも止められない

無防備すぎる

車内は静かだった。

私の隣でハンドルを握る凪くんは、いつも通り無表情。

でも、さっきの出来事がまだ頭に残っていて
変な緊張が残っていた。

 

しばらく沈黙が続いたあと
凪くんがふっと小さく息を吐いた。

 

「お前さ」

 

「……なに」

 

「無防備すぎる」

 

「は?」

 

突然の言葉に、思わず眉をひそめる。

 

「どういう意味?」

 

「一人であんな時間に、あんな裏道歩くなよ」

 

「……だって、いつも通ってる道だし」

 

「“いつも大丈夫だった”なんて何の保証にもならない」

 

低い声だけど、怒ってるわけじゃなく
むしろ淡々と諭すような口調だった。

 

「今日みたいなやつ、これからまた出るかもしれないんだぞ」

 

「……でも、あんなのに毎回ビクビクしてたら帰れなくなるよ」

 

凪くんは少しだけ視線をこっちに寄越してきた。

その目が、いつもよりほんの少しだけ鋭くなってる気がした。

 

「だから、そういう時は兄貴にでも俺にでも連絡すればいい」

 

「……いちいちそんなの迷惑でしょ」

 

「迷惑だと思ってんのか?」

 

「……う…」

 

返せなかった。
だって、実際そう思ってた。

いちいち助けてって言うのも、迷惑そうだし、鬱陶しがられそうで。

 

でも凪くんは、ほんの少しだけ口の端を上げた。

 

「……少なくとも兄貴はそれが迷惑だなんて絶対言わねぇよ」

 

「……」

 

「俺も別に、迷惑とは思わない」

 

その一言に、なんだか胸がドキッとする。

自分でも理由はわからないけど。

 

「……まあ、今日みたいなことは気をつけろって話」

 

「……うん」

 

また少しだけ沈黙が流れる。

でも、その沈黙はなんだか昨日までの無言とは少し違っていた。

 

優しいのか冷たいのかわからない凪くんの言葉に
私は小さく息を吐いた。
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