黒兎の相棒は総長でも止められない
兄の優しさ
家に帰ると、ちょうどお兄ちゃんがリビングにいた。
革ジャンを脱ぎながらスマホを操作してる。
「おかえり」
「……ただいま」
さっきの出来事を思い出して、少しだけ間が空いた返事になった。
兄貴はソファに座る私の顔をじっと見てきた。
「七星……疲れてんな?」
「……うん、まあちょっとだけ」
「何かあった?」
兄の目は昔から鋭い。
隠してもすぐバレる。
私は少し迷ったけど
正直に話すことにした。
「……帰り道で少し、知らない人たちに絡まれた」
兄貴の表情が一瞬だけ固まった。
「どこで?」
「裏道の方。いつも通ってる道だったんだけど…」
「何人?」
「三、四人かな……」
兄貴は軽く舌打ちして、腕を組んだ。
「最近な…」
「ん?」
「街に少しずつ、他所の奴らが入り込んできてる」
私は思わず背筋が冷たくなった。
「……やっぱり、抗争?」
兄は短く頷いた。
「直接仕掛けてはきてないけど、偵察みたいな奴らがうろついてる。どこの誰かまではまだ掴めてねぇけどな」
「……危なくないの?」
「だから今、お前にはこうしてちゃんと話してんだろ」
兄は珍しく真面目なトーンで言葉を続けた。
「七星。もしまた一人で歩いてて、少しでもおかしいと思ったらすぐ誰かに連絡しろ」
「……うん」
「凪も言ってただろ?無理すんなって」
「……言われた」
兄は少しだけ目を細める。
「凪は冷たそうに見えて、こういう時は徹底してるからな。遠慮すんな」
私は小さく頷いた。
兄貴は、さらにほんの少しだけ言葉を強めた。
「マジで危ねぇって思ったら遠慮せず連絡しろよ。絶対に無茶すんなよ」
「……わかった」
「ほんとにだぞ?」
「わかってるよ…」
兄は少しだけ表情を緩めたけど、目はまだ真剣だった。
「お前は、俺の大事な妹なんだから」
私は少し照れながら、頭を軽く下げた。
「……ありがとう」
兄はそれ以上何も言わず、スマホの通知音に目を戻した。
でも私は、そのまま胸の奥にひっかかる不安を抱えたまま
ソファの背もたれに体を預けた。