黒兎の相棒は総長でも止められない

兄と凪

「揺れ始める全て」

 

 

翌日――

倉庫の片隅。

バイクをいじってた凪のところに兄が近づいてきた。

 

「凪」

 

「ん」

 

「向こう、少しずつ仕掛けてきてるな」

 

凪は工具を置きながら顔を上げる。

 

「派手に?」

 

「今はまだそこまでじゃねぇけど…まあ面倒な流れになってきてんのは確かだな」

 

凪はタオルで手を拭きながら短く吐く。

 

「やりづれぇな」

 

「ま、俺らも油断はすんなよ」

 

兄はふっと凪を見ながら、少し間を置いて続けた。

 

「で――」

 

「……?」

 

「お前も最近、七星の送迎ずいぶん張り切ってんじゃん」

 

「頼まれてるからだろ」

 

「ふーん」

 

兄がニヤっと口元だけ緩める。

 

「まぁー、お前もな。凪」

 

その瞬間――

凪の指先がタオルをぎゅっと少しだけ強く握る。

ほんの一瞬、目線が僅かに逸れた。

 

そのわかりやすい反応に
兄はわざと何も言わず、ただ軽く肩をすくめて笑っただけだった。

 

「ま、別に悪いことじゃねぇけどな」

 

凪はタオルを握ったまま、短く息を吐く。

 

(……まじで俺、何やってんだか)

(……いや、俺があいつを?)

 

けど、そのモヤモヤした自覚は
少しずつ、自分の中でも膨らみ始めていた。
< 30 / 61 >

この作品をシェア

pagetop