黒兎の相棒は総長でも止められない

凪の部屋に隠されたもの


扉をそっと開ける。

 

静かな空気が流れ込んでくる。

凪くんの部屋。

シンプルで、整理整頓されていて、余計な物が少ない。

 

(……綺麗…)

 

カーテンは落ち着いた色で、ベッドの上には無駄に置物もなく
壁沿いには小さめの本棚と、棚の上に並ぶいくつかの小物。

ほんの少しの生活感だけが、静かにそこにあった。

 

(やっぱり…男の人の部屋って感じ…)

 

私はそっと中に足を踏み入れた。

バスルームの水音だけが、リビングの方からかすかに響いてくる。

 

(……今ならちょっとだけ見ても大丈夫…だよね)

 

ベッドの横の棚の上、整理された小物入れ。

指先でそっと表面をなぞりながら、私はつい視線を動かしていく。

 

その時――

一番下の引き出しの端から、少しだけ何かがはみ出してるのが目に入った。

 

(……ん?)

 

軽い好奇心で、そっとその引き出しを開ける。

 

中には、いくつかの……見慣れないモノ。

 

(え…)

 

手錠。
細めのロープ。
黒いアイマスク。
拘束に使いそうな革ベルト――

 

一瞬、何が起きてるのかわからなくなる。

息が止まりそうになった。

 

(……な、なにこれ…!)

(……え、ええええ!?)

 

頭が真っ白になりながらも、視線は勝手に中身を捉えてしまう。

 

(こ、こういう…趣味…?)

(まってまって…嘘でしょ…?これって…)

(もしかして…そ、そういう……っ)

 

ドクン、ドクン――

いつもの緊張とは全然違う種類のドクンが、胸を激しく打つ。

顔がみるみる熱くなるのがわかる。

手のひらがじっとり汗ばんできた。

 

(ば、馬鹿じゃないの…なに…なんで…)

(え…嘘…まじで…)

(こ、拘束とか、プレイとか…そういう…!?)

 

慌てて引き出しを元に戻そうとしたその瞬間――

 

背後から――

静かに、低い声が降りた。

 

「――何してんの?」

 

「――――っ!!?」

 

一瞬で心臓が跳ね上がった。

全身がびくっと硬直して、その場で固まる。

振り返ると、そこにはバスルームから出てきたばかりの凪くんが立っていた。

 

濡れた髪をタオルでラフに拭きながら、じっと私を見てる。

目は細められ、口元はわずかに緩んでる。

その余裕そうな表情が、余計に心臓をかき乱した。

 

(やばい…バレた…見られた…)

(ど、どどど、どうしよう!!)
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