黒兎の相棒は総長でも止められない
いつも通りの兄
部屋に入って、私は制服のネクタイをほどきながら
ふぅっと息をついた。
兄貴はソファに座ってスマホをいじっていたけど
私が入ると軽く視線を上げた。
「おう」
「……あー、疲れた……」
私はそのままソファの向かいに座り込む。
財布を受け取った警察署からの紙袋をポンッと兄の方に投げた。
「ほら。ちゃんと受け取ってきたから」
兄貴は片手で器用にキャッチして、袋の中を軽く覗いた。
「悪ぃな。助かった」
「ほんっと……お兄ちゃんもさ、いい加減落とさないでよ」
兄は苦笑しながら肩をすくめる。
「まあまあ。女の子たちが財布出せとか色々やかましくてな?そのまま置きっぱにしたんだよ」
「……ほんっとクズだわ」
「はいはい。言い過ぎだって」
「言い過ぎじゃないから!」
私は呆れながらも、もう慣れたやり取りに軽くため息をつく。
でも兄は女遊びが激しいわりに、私にだけは一線引いてきた。
それは昔から変わらない。
兄はふと真面目な顔になって、こっちを見る。
「……で、警察署まではちゃんと凪が送ったろ?」
「うん。迎えに来た」
兄はわずかにうなずく。
「……あいつなら安心だわ。抗争も少し荒れてるしな。今ちょっと色々ある」
私はその言葉に少し緊張した。
「また?前に一応落ち着いたんじゃなかったの?」
「まあ、向こうが蒸し返してきたんだよ。今はまだ水面下だけどな」
兄はそう言いながらも、声は淡々としていた。
今までも、こんな危ない空気は何度もあった。
だから私はこれ以上深くは聞かなかった。
「……危ないならお兄ちゃんも少しは気をつけてよ」
「大丈夫だ。心配すんな、七星」
兄は笑いながら、私の頭を軽くぽんぽんと叩く。
「でも、一応お前はしばらく夜遅くなるの避けとけ。万が一の時、巻き込みたくねぇし」
「わかった」
「何かあったら、すぐ俺か凪に言えよ」
「……うん」
兄のそういうとこは、ずるいくらい優しい。
普段はチャラチャラしてるのに、
こういう時は必ず私のことを守ろうとしてくれる。
(……まぁ、でも……)
(凪くんにはあんま頼りたくないんだけどな……)
私は心の中で、そんなちょっとした文句を呟きながら
ソファに深く沈み込んだ。