黒兎の相棒は総長でも止められない

ほんとにもう

車内はいつも通りの沈黙。

ハンドルを握る凪くんの横顔は、今日も無表情のままだった。

 

(……なんでまたこの人ばっかなんだろ)

 

兄貴が自分で迎えに来れない理由はわかる。
族の揉め事、抗争、仲間の面倒──
いろいろ背負ってるのは知ってる。

 

でも……それにしても毎回この人なのはどうなの。

 

「……お前、さっきからずっとこっち見てんだろ」

 

不意に凪くんの低い声が響く。

 

「は!?見てないし!」

 

「見てた」

 

「……あんたの横顔なんか興味ないし」

 

凪くんがふっと小さく笑った。

「じゃあ何見てたんだよ」

 

「前方確認してただけです!!」

 

「運転してんのは俺なんだけどな」

 

ムカつく。ほんとムカつく。
でもなんだか、こっちがムキになればなるほど、凪くんは余裕そうに見えてイラつく。

 

そのまま、静かなやり取りが続いたまま車は私の家の前に停まった。

 

エンジンが止まる音。

いつもならここで「ありがと」で終わるはずだった。

 

でも今日は――

 

玄関先に誰かの姿が見えた。

 

「……あれ」

 

そこにいたのは、お兄ちゃんだった。

黒兎連合の革ジャンを羽織り、腕を組んで待っていた。

 

「お兄ちゃん……?」

 

凪くんは視線だけ兄に向け、無言で軽く顎を動かす。

 

お兄ちゃんは私を見るなり歩み寄ってきた。

 

「悪ぃな、凪。今日もありがとな」

 

「……別に」

 

短くそう返した凪くんの声は、いつも以上に淡々としてた。

 

兄貴は私の頭をポンポンと軽く叩いて、笑いながら言う。

 

「ったく。毎回毎回世話かけさせやがってよ」

 

「いやいや誰の用事よ!自分で取りに行けばよかったじゃん!」

 

「いやあ、ちょっと立て込んでてさ。まあ凪なら安心だし」

 

「……もうっ」

 

私がぷいっとそっぽを向くと
凪くんは黙ったまま小さく口の端を上げていた。

 

「……ほら。ほらな?」

 

「なにがよ!」

 

兄はニヤついたまま手を振って凪くんに告げる。

 

「じゃあ悪ぃな、また頼むかも」

 

「……勝手にしろ」

 

淡々と返して凪くんは車を発進させた。

 

玄関に入るまで
私はずっとなんとも言えないモヤモヤを抱えていた。

 

(……なんで毎回、凪くんばっかりなんだろ)

 

そう思いながら
今日もまた、変な疲労感と一緒に家に入った。
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