婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
「アーリン、お前に会わせたい人がいる」

久しぶりに父がまっすぐ私の目を見て、そう言った。

その表情は、先日までの頑なな拒絶の色を残しつつも、どこか誇らしげだった。

「隣国のベンジャミン王子だ」

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

ベンジャミン王子――名は知っている。

確か婚約者を事故で亡くしたと聞いたことがあった。

以来、深い喪に服していると噂されていたのに。


「そのベンジャミン王子が、お前の肖像画を見て、結婚してもいいと言っている。王家の人間がだ。これは名誉なことだぞ。」

父の声はどこか自慢げで、私の返事を待つ間にも期待がにじんでいた。

私はただ、呆れてしまった。

「……冗談でしょう?」

「冗談ではない。」

「グレイブ以外とは、結婚しません。」

静かに、はっきりと告げると、父の顔が引きつった。


「おまえは何を言っているのか分かっているのか? 相手は王子だぞ。王家の人間だ。貴族以上だ。おまえのような娘を欲しがるなど、滅多にある話ではない」

「だから何ですか? 私は物じゃない。気に入られたからって、はいそうですかと渡されるほど、軽くはありません。」

言い終わると同時に、胸の奥から熱い感情がこみ上げた。

怒りと、悔しさと、そして哀しさ。


「どうして父様は、私の気持ちを少しも考えてくれないの?」

「気持ちで国は守れん!」

父の声が怒鳴りに変わった。

だが、私は怯まなかった。

「私はもう、グレイブ以外とは結婚しません。誰が相手でも。」

その言葉に、父はただ黙り込んだ。

きっと、これまでの娘ではないと気づいたのだろう。

私はそのまま席を立ち、振り返ることなく扉を閉めた。


王子だろうが、貴族だろうが、私は私の意志で未来を選ぶ。それが、私の生き方なのだから。

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