婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
煌びやかな灯が揺れる晩餐会の会場。

金糸を織り込んだ深紅のドレスを身にまといながら、私は王家の紋章が刺繍された椅子に腰を下ろした。

隣には、ベンジャミン王子。父の意向で、私の席は彼の隣に用意されていた。


「アーリン嬢。肖像画で拝見していたが、実物はさらに美しい。」

唐突に囁かれたその言葉に、私はとっさに表情を作った。

「恐縮です、王子。」

褒め言葉としてはありがちだが、その目は真剣だった。

灰色の瞳に一切の冗談はなかった。


「しかし皮肉にも、王族というものは、好きな女性と結婚できるわけではない。だが――結婚した相手を、愛する努力はできる。」

まるで詩人のようにさらりと口にするその言葉に、私は思わずグラスを持つ手に力を込めた。

「努力、ですか。」

「そう。政略で決まった婚姻の中でも、愛は育てられる。君のような聡明な女性なら尚更だ。」

その声色には誠実さがあった。

けれど、私の心は冷めていくばかりだった。

話を聞けば聞くほど、彼の語る「結婚」は、まるで義務であり手段だった。


「……王になるには、結婚が必要なのですか?」

「当然だ。結婚して、子を成さなければ、王位は継げない。それが我が国の掟でね。相手は貴族であれば問題ない。むしろ、婚姻によって国同士の信頼が深まるのなら、それが最善だ。」
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