婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
グレイブは騎士団長としての技量を余すことなく披露し、王子は王族として鍛え抜かれた強さを誇示する。

「さすがは次期国王だな……」

グレイブが息を吐きつつ言った。


「当然だ。私にかかってくる者など、誰であろうと打ちのめす!」

ベンジャミン王子の剣がグレイブの肩をかすめる。血がにじむ。

会場にどよめきが走る。

誰もが、王子の勝利を確信した瞬間だった。


――その時。

「グレイブ!!」

私はありったけの声で叫んだ。

それは言葉以上の力を持っていた。

私の心からの願いが、その名に込められていた。

その瞬間、グレイブの目に、炎が宿った。

彼の剣が鋭く閃き、まるで風を切り裂くように、ベンジャミンの防御を貫いた。

「ぐっ……!」

王子の剣が吹き飛び、膝をつく。

会場が静まり返る。


「……勝負はついた。」

グレイブは静かに言った。

私の元に歩み寄ると、彼女の手を取り、しっかりと握る。

「君を、取り戻しに来た。もう誰にも渡さない。」

私は震える声で応えた。

「……来てくれて、ありがとう。」

その姿を見て、誰もがもう何も言えなかった。


私の目には、もう迷いなどひとかけらもなかったのだから。
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