婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
なぜ、自分じゃなかったのか。

私も、その問いの重みは想像できる。

彼女はきっと、隣に住み、日々を共に過ごしながら、少しずつグレイブに心を寄せていったのだろう。

淡い想いが、時をかけて強くなっていくように。

だけど――私は突如現れた。

元公爵令嬢で、お姫様のように扱われてきた私が。

彼の心を一気に奪っていったように見えたのかもしれない。


「この女がお姫様じゃなかったら――」

そんな風に思っているのだろう。

その言葉が、ミーシャさんの目から伝わってくる。


だけど私は、ただのお姫様じゃない。

グレイブに恋をし、泣いて、想って、傷ついて――

それでも彼を選び、彼に選ばれた。

それがどれほど尊く、苦しいものだったかを、私は知っている。


だから――

ごめんなさい、ミーシャさん。

あなたの痛みを踏みにじるつもりはない。

でも、私は彼の隣を譲れない。

たとえ、どれだけにらまれても。

だって、私の愛もまた、本物だから。
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