婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
「嘘よ。あなたは私を、自分の物にしようとしているわ――」

震える声でそう言い放った瞬間、クリフはふっと微笑んだ。

その微笑みは、かつての穏やかだった彼の面影を残しながらも、どこか狂気じみていた。

「よく私を理解している。さすが、かつての婚約者だけのことはあるね。」

その瞬間、背筋が凍るのを感じた。

――このままでは、本当に囚われてしまう。

逃げなければ。何としてでも、ここから……!


私は必死に体を捩った。

「離して!私は、行かない!」

だが、無駄だった。

左右から私の腕を押さえる護衛たちは、淡々と私の抵抗を受け流すだけ。

まるで人形のような無表情で、命令に従っているだけだった。


「では、行きましょう。」

クリフのその言葉と同時に、私の体は強引に引きずられるようにして、宮殿の奥へと運ばれていった。

長い廊下を進み、曲がりくねった階段を登った先。

私が連れて行かれたのは、見覚えのある場所だった。

――クリフの、自室。

「ここは……」

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