婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
その時だった。

ドアの向こうで、小さな声が聞こえた。

「国王。騎士団長のグレイブが、アーリン嬢を出せと騒いでいます。」

グレイブ――来てくれた。

私の……グレイブが。胸が熱くなり、手を伸ばそうとした。

けれど、その手はクリフにぴたりと押さえつけられる。

「アーリンは家に帰ったと言え。」

「しかし……」

「宮殿にはいない。それ以上は知らんと伝えろ。」

短く命じる声に、使用人は従うしかない。

「……はい。」

扉の音が遠ざかり、私は唇を噛んだ。

振り返ったクリフは、まるで恋人に寄り添うように、私の隣へ横たわる。

「私のアーリン。誰もここには来れないよ。」

その笑顔が怖かった。

「ここは私の自室だからね。入れるのは、王である私と、王妃だけ。」

静かに、確実に閉ざされていく外界への道。

グレイブの叫びも、私の願いも、厚い扉と権力の壁に阻まれて――私はただ、瞼を震わせることしかできなかった。

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