婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
翌日、グレイブは牢屋から解放された。処刑は免れたと聞いて、私は胸を撫で下ろした。

「グレイブ!」

姿を見つけた瞬間、私は駆け寄って、彼をぎゅっと抱きしめた。その身体は少し痩せていて、思わず涙が込み上げた。

「アーリン、心配をかけたな。」

低く優しい声。その響きに、私はもう何も言えなくなった。ただ、彼がここにいてくれる。それだけで胸がいっぱいだった。

「アーリン、聞いた。俺を助けるために……愛人になるって言ったって。」

その言葉に私はびくっと肩を揺らした。

「……ああ……」

「裸になって、覚悟を見せたって。」

顔から火が出そうだった。恥ずかしくて、視線を下げることしかできなかった。だけど――。

「馬鹿だな。」

ぽつりと呟いたグレイブの声は、優しく震えていた。そして、気づけば彼の頬に一筋の涙が伝っていた。

「俺は……アーリンにそんなことさせたくなかったのに……」

「ごめんね。でも、あなたがいなくなるのは嫌だったの……」

私も涙をこらえきれず、彼の胸に顔を埋めた。ようやく、もう一度この腕に包まれたのだ。
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