婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
「アーリンは、グレイブの為なら体も差し出すんだな。」

その言葉に、胸の奥がギクリと痛んだ。

思わず息を呑み、唇が震える。

「えっ……」

「そこまでグレイブを愛しているのだな。」

ゆっくりと、クリフは私の方へ振り向いた。

その瞳には、いつか私が知っていた優しさがわずかに残っていて、けれどどこか寂しげだった。


「本当は……アーリンと、愛し合う形で見たかった。」

その静かな呟きは、私の胸を貫いた。

「クリフ……」

どうしてこんなことになったの? あの頃、ただ笑い合っていた日々は幻だったの?

「もういい。」

クリフは目を伏せると、背を向けた。

「愛人にならなくてもいい。」

その一言に、私は立ち尽くした。

助けたかったのは、ただグレイブの命。それだけだったのに――

けれど、胸の奥に残る痛みは、きっとクリフのためにも流している涙だった。

彼が本当に欲しかったのは、私の身体じゃなく、心だったのかもしれない。
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