空が夕闇に変わる頃

「待って春香さん、俺、それ聞く勇気ない・・・」

「何言ってるの、ガキの恋愛じゃないんだから、こーゆう事はハッキリさせないとダメなのよ」

黙っているわたしに、春香が目で訴えた。早く、答えろと。

「優しい・・・人」

「だー!」春香は勘弁してくれというように頭を垂れた。「そーゆう事を聞いてんじゃないのよ。異性として好きかどうかって事!ラブよ!」

2人が真剣な面持ちで(特に一真くん)わたしの返事を待っているから、逃げる事が出来ない。
額に汗が滲んできた。

「わたしは・・・」
その時、チリンと、客の来店を告げるドアベルが鳴った。
「いらっしゃいませー!」思わず、声が上擦る。

春香は小声で舌打ちをすると、瞬時に営業モードの顔に切り替わり、お客さんを出迎えに行った。

──助かった。そう思ったのは、わたしだけではないようで、一真くんの顔を見てわかった。
お客さんが来なければ、わたしは何て答えていたんだろう。自分でもわからないが、すぐに否定出来なかったのも事実だ。



翌日が定休日の日は、飲みに行くという話になるのがお決まりのパターンだ。切り出すのは決まって店長か春香で、そのタイミングも決まって閉店後の掃除中。最初の頃は春香も遠慮して誘われるのを待っていたが、今となっては自ら奢られに行くんだから大したものだ。店長も決して嫌な顔をしないし、アル中同士、通ずるものがあるんだろう。

今日、切り出したのは一真くんだった。というのも、甥が世話になっているから、タダ酒を飲みに来いという凌さんの太っ腹な計らいによるものだ。春香の酒量を承知の上での申し出なので、尚更だ。


もしかしたらと期待を込めて店を出たが、やはり空舞さんはいない。
あの日、ここに居た空舞さんを思い出し、またどうしようもない不安に駆られる。


「わたしは、帰りますね」

「えっ、なんでよ!」

もしかしたら、家で待っているかもしれない。そう思うと、飲む気になんてなれなかった。

「ちょっと、用事があって」

「今から?早坂さん来てないじゃない」
< 196 / 314 >

この作品をシェア

pagetop