空が夕闇に変わる頃

事実、そうだった。あの時、車に刀を取りに行った時、2人の姿がなくて自分を責めた。もっと早く戻っていればと。

「あなたにそう思われるのが、あたしは1番堪えるのよ」

「わたしは、早坂さんが怪我をしてるのに知らないでいるのが1番イヤです・・・」

「あたしの事は心配しなくていいのよ」

「ムリです・・・怪我してるのに、わたしをおんぶして・・・」

「あのね、あなたを運ぶくらい両手が無くたって出来るわ。それに怪我なんて大袈裟なもんじゃないのよ。ほんのかすり傷」

早坂さんから離れ、その腕に触れた。硬くガッシリとした腕に重なると、自分の手がとても華奢に見える。

「いつ怪我したんですか?」

「・・・吹き飛ばされた時よ」早坂さんは観念したように言った。「一緒に飛んできた木か何かに当たったのね」

「傷は深いんですか?」

「全然?」

その軽さが、全く信用出来ない。

「包帯取れたら、チェックさせてください」

早坂さんはフフッと笑った。「チェックされるの?」

「はい」

「わかったわ」

早坂さんはわたしの顎をコロコロと撫でた。猫にするみたいに。ああ、撫でられて目を閉じる猫の気持ちがわかった。

「気持ちぃ・・・」

「そーゆう顔でそーゆうこと言わないでくれる」

「え?」

目を開けて、息が止まった。
早坂さんの顔が目の前にあったから。視界がボヤけるほど近くに。

「あ、ヤバ・・・」

言ったのは、早坂さんだ。顔に息がかかり、思考が停止する。
早坂さんはわたしから離れ、口元を押さえた。

「危ないところだったわ」

──「なにが?」無意識に口から出ていた。

「ゴメンね」

「いや、なにがですか?」

早坂さんがわたしの頭にポンと手を置く。
いや、答えになってないんですが。

「・・・睨まれてる?」

「たらし」ボソリと呟いた。

「出た!またそれ?違うって言ってるでしょ」

「・・・何がどう違うか説明してもらいたいのですが」

早坂さんは、黙った。はいはい、始まった。またそれ?は、わたしのセリフですが。思わせぶりからの無言。これで何回目ですか?

「雪音ちゃん、顔に薬塗ってる?」

「えっ?・・・あ"っ!!」

自分の顔の事をスッカリ忘れていた。ここに着いた時にマスクを外したままだった。つまり、この悲惨な顔をずっと晒していたということか。もう手遅れだが、バッグからマスクを取り出してつけた。
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