【シナリオ】恋も未来も、今はまだ練習中。
第15話/最終話 ずっと、そばに。
○春の大学構内・卒業式前日
桜がほころび始めたキャンパス。
保育実習を終え、学生生活もいよいよラストスパート。
汐梨は、卒業を控えた美哉とベンチに並んで座っていた。
汐梨「……ほんとに卒業しちゃうんですね、先輩」
美哉「うん、ギリギリね。汐梨ちゃんの課題のピアノ、俺の方が緊張したんだから」
汐梨「ふふっ、でも先輩が弾いてくれた連弾、あれがなかったら私たぶん落ちてました……!」
思い出すのは、サークルでの練習、追試のレッスン、パンケーキの甘さと、君の笑顔。
あの日々が、もう“思い出”になっていく。
○オペレッタ研究部・部室/その日の夕方
部室では最後の親睦会が行われていた。
榛名「美哉、就職先決まったんだって?」
美哉「うん。第一候補だったとこ。児童指導員任用資格取れたし、児童養護施設で五年働いた後に家庭支援専門相談員も取得目指すんだ」
汐梨「すごい……!」
心からの拍手が起きる。
でも美哉は照れくさそうに肩をすくめた。
美哉「正直、怖いけどね。でも、俺は周りの大人たちに恵まれてた。だから俺を育ててくれた場所みたいに、あったかいところを作りたいんだ。そのために頑張らないといけないと、だけど」
その目は、遠い過去と、これからの未来を真っ直ぐ見つめていた。
○大学正門・夜/別れの前に
親睦会の帰り道。
夜の大学構内をふたりで歩く。
少し肌寒い空気。
でも心は、あたたかい。
汐梨「先輩……いなくなっちゃうんですね」
美哉「いなくなんないよ。俺は俺で、社会人一年目として頑張るだけ」
汐梨「私も来年、卒業です」
美哉「……それまで、待っててほしいな」
汐梨「えっ……?」
美哉「俺、ちゃんと働いて、お金ためて、ひとりじゃなくて――ふたりの生活、作っていきたいって思ってる」
真剣な声。
ふざけた言い回しじゃない。
まっすぐなプロミス。
汐梨「……ずるいです。そんなこと言われたら……」
顔が熱くなる。
でも――答えは決まっていた。
汐梨「私も、待ってます。ちゃんと卒業して、胸張って隣に立てるように、頑張ります」
見つめ合う視線。
その距離が、すっと縮まる。
美哉が、そっと汐梨の手を取る。
美哉「これからも、よろしくね」
汐梨「……はい」
風がそよいで、桜がひとひら舞い落ちる。
○エピローグ・数年後/ある春の日
春の保育園。
壁には手作りのイラストと、花の飾り。
その中で、一人の女性が子どもたちに絵本を読み聞かせている。
――汐梨。保育士一年目。
子ども「しおりせんせー、つぎのはなしも!」
汐梨「じゃあ……このお話のつづきは、また明日ね?」
優しく笑って絵本を閉じる。
仕事が終わり、汐梨は他の先生に挨拶をして園を出る。
そこへ、玄関にスーツ姿の男性が現れる。最後にあった時より少し肌が焼けている。
美哉「お迎えに来ました~先生」
汐梨「……なに言ってるんですか、まだ仕事で来れないって言ってませんでした?」
でも、汐梨は頬が自然とゆるんでしまう。
美哉「先生に、いや、汐梨に会いたくて休みもぎ取って来たなんて言ったら……怒る?
汐梨「怒らないよ、だって私も会いたかった。美哉くん」
汐梨が言うと美哉は「それなら良かった」と言いふたり、微笑み合いながら並んで歩く。
(これが、ふたりで選んだ“これから”。)
―Fin―


