【シナリオ】恋も未来も、今はまだ練習中。

第14話 誰にも言えないこと、君だけに言いたかった






○午後・大学内/休講の午後

 講義が急遽休講になり、構内のベンチに座っていた汐梨。
 スマホを握りしめていたけれど、画面はずっと暗いまま。

汐梨(……ママと、あんなに喧嘩するなんて)

 昨夜、進路について話し合ったつもりだった。
 でも――


 

○【回想】梶塚家・居間/前夜

母「……本当に、保育士になるの? もっと広い道があるんじゃない?」

汐梨「私は、子どもが好きで、保育士になりたくて保育学科に入ったんだよ。今さら何を……」

母「子どもが好きって気持ちだけでやっていけるほど、甘くないわよ。あなた、体も強くないし……」

汐梨「じゃあ何? 就職しやすいからって、違う仕事しろってこと?」

母「そうは言ってないけど……」

汐梨「言ってるよ!!」

 声を荒げて、泣きながら自室にこもった。
 母の心配も、頭では分かってる。
 でも、“夢を否定された”ような気がして、悔しくて泣いた。


 

○大学・中庭ベンチ/現在

汐梨(……美哉くんになら、話せるかな)

 LINEで呼び出すと、美哉は5分もせずにやってきた。

美哉「呼び出し、何かあった?」

 笑顔だった。
 でも、汐梨が沈んだ顔をしているのを見て、すぐに表情が変わる。

美哉「話せる?」

汐梨「……うん」


 

○学内の空き教室/夕方

 ふたりだけの静かな空間。
 カーテン越しに、夕日が差し込んでいる。

汐梨「……ママと進路のことで喧嘩しちゃって」

 ぽつぽつと、涙混じりに話す。
 保育士になりたい気持ち。
 母の心配。
 否定されたような痛み。

美哉は、黙って全部聞いてくれた。
やがて、彼がふと口を開く。

美哉「……汐梨ちゃん」

汐梨「うん?」

美哉「“喧嘩できる母親”がいるって、実はすごいことなんだよ」

汐梨「……え?」

 美哉は、窓の外を見つめながら、ぽつりと言った。

美哉「俺、児童養護施設で育ったから。……物心ついた時には親はいなかった。名字も途中で変わってる」

 汐梨は、目を丸くする。

美哉「施設の先生はすごく優しかったし、仲間もいた。でも、“進路で喧嘩する親”なんて、俺にはいなかった」

 彼の横顔は、いつものおちゃらけた美哉ではなかった。
 でも――どこか優しい。

美哉「羨ましいなって思った。悩める相手がいるって、甘えられる場所があるって……幸せなことだよ」

 その言葉に、汐梨の胸がきゅうっと痛む。

汐梨「……ごめん、そんなつもりじゃ……」

美哉「違うよ、責めてるわけじゃない。ただ――俺は、“汐梨ちゃんの夢”を否定する気はない。むしろ、応援したい」

 そう言って、美哉は微笑んだ。

美哉「子どもに優しくて、まっすぐで。保育士になるために頑張ってる汐梨ちゃん、俺はすごく素敵だと思う」

 その優しい声に、汐梨の頬を涙が伝う。

汐梨「……私も、もっと話せばよかった。ちゃんと、自分の気持ちを……」

美哉「うん。言葉にしないと、伝わらないこと、いっぱいあるから」

 静かに頷き合うふたり。
 小さなすれ違いは、ちゃんと向き合えば、乗り越えられる。


 

○夜・帰り道

 学内からの帰り道。
 すっかり暗くなった空を、ふたりで並んで歩く。

美哉「俺さ、まだ悩んでるんだ。進路」

汐梨「……うん?」

美哉「施設の先生になりたいって思ってた。でも最近、“家庭をつくる側”にもなりたいなって。誰かにちゃんと手を差し出せる大人になりたいって、汐梨ちゃんといて思うようになった」

 その言葉に、汐梨はドキンとする。

美哉「誰かと生きてくって、簡単じゃないけど……。ちゃんと考えたいんだ。未来のこと」

汐梨「……うん、私も」

 並んで歩く二人の歩幅が、ゆっくり、でも確かに揃っていく。


 

○梶塚家・夜/帰宅後

 ドアを開けると、母が台所で夕飯を作っていた。

母「あ、汐梨……ごめんね、昨日は……」

 汐梨は首を横に振って、小さく微笑む。

汐梨「私の方こそ、ちゃんと話してなくて……今度、ゆっくり話そ?」

 母は驚いた顔をして、それから、ほっとしたように笑った。


< 14 / 15 >

この作品をシェア

pagetop