王太子の婚約破棄で逆ところてん式に弾き出された令嬢は腹黒公爵様の掌の上【短編】



 ディアナとアルベルトの婚約が社交界へ周知され、だんだんと受け入れられていた、そんな時だった。

 彼女自身も新しい婚約者との生活に慣れ、これまで抱いていた嫌悪感もすっかり消えてしまっていた。
 相変わらず婚約者は優しくて、あんなにいがみ合っていた日々も遠くのことに思えてきていた。

 今日も(・・・)魔法隊長に頼まれて総司令官のもとへ報告書を届けに行き、アルベルトから「少しばかりお茶でも……」と捕まった帰りだった。

「いい気なものだな。伯爵令嬢様は」

 棘のある声にふと視線を向けると、柱の陰から二人の人物が憎々しげにディアナを()め付けていたのだ。

 見覚えのある顔ぶれだった。むしろ、忘れたくとも、嫌でも顔を思い出してしまう人たち。

 彼らは、総司令官の直属の部下で、なおかつ苛烈な「過激派」として知られた人物だ。
 当然、ディアナとは相性が悪く、これまで度々ぶつかり合っていた。

「……何がですか?」

 ディアナも負けじと睨み返す。
 最近の過激派の連中は、婚約の影響か彼女に対して敵意をなくした様子だったが、この二人だけは相変わらず難癖をつけてくるのだ。

「はっ、白々しい」

 女のほうの部下が顔を歪めながら鼻で笑う。たしか、男爵令嬢だっただろうか。
 同じ令嬢同士、しかもディアナのほうが身分も騎士階級も上だからか、彼女は何かと突っかかってくる。

 彼女はディアナの鼻先までずいと顔を寄せて、

「第二王子に振られたからって、次は公爵閣下か? 地位があれば誰でもいいんだな。尻軽め」

「そっ……」

 ディアナは言い返そうとしたが、次の言葉が出なかった。
 自分自身でも分からないのだ。……胸の奥の感情が。
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