練習しよっか ―キミとは演技じゃいられない―
「…よし。じゃ、一旦休憩すっか」

 

涼真くんがそう言って
自然にソファから少し背をもたれさせた

 

「う、うん…」

 

私もカップを持ち直して水を飲むけど
胸のドキドキはなかなか収まらない

 

頬がまだ熱いのが自分でも分かる

 

 

ふと横を見ると
涼真くんは何気なくスマホをいじってるけど

 

その手の動きが
微妙に落ち着きなく見えた

 

たぶん――
少しだけ、お互い意識し始めてる空気

 

でも
涼真くんはあくまで自然体を装ってた

 

「……なぁ」

 

「ん?」


涼真くんがソファに軽く背をもたせたまま
ゆるくこちらを見る

 

「……さっきのとこ、悪くなかったぞ」

 

「え?」

 

「ちゃんと感情乗ってたし。表情も自然だった」

 

「そ、そうかな…」

 

私は照れながらカップを両手で包み込むように持った

 

「緊張してたけど…でも、やってみたら少し掴めたかも」

 

「おう。いいペースだよ」

 

涼真くんは軽く笑ったけど
私は…実は別のことで今ドキドキしてた

 

少し迷ったけど
思い切って切り出す

 

「……あのさ」

 

「ん?」

 

「明後日…ベッドシーンの撮影入るんだ」

 

言葉に出した瞬間
自分の心臓の音が急に早くなった気がした

 

「……そっか。ついに本番か」

 

涼真くんの表情は
一瞬だけピクリと動いたけど
すぐに落ち着いたトーンに戻った

 

「まあ避けて通れないよな」

 

「……うん」

 

「で?」

 

「で、っていうか…」

 

私は息を整えながら
さらに続けた

 

「台本…結構濃厚なシーンになってて…」

 

「……濃厚?」

 

「う、うん……前貼りとか使うくらいの…」

 

言いながら
顔がどんどん熱くなってくのがわかった

 

涼真くんは
さすがに一瞬だけ口元が固まってた

 

けどすぐにふっと笑う

 

「そっか…なるほどな」

 

私は思わず下を向く

 

「で…今日、その…少しでも感覚掴めたらって思ってて」

 

「……つまり、今日そこも軽く練習してみたいってこと?」

 

涼真くんの低い声が
妙に柔らかく耳に響く

 

「……うん」



 

「……奈々が嫌じゃないなら、な」

 

涼真くんの声が
柔らかく落ち着いたまま耳に入る

 

私は少しだけ息を呑んで
ゆっくり顔を上げた

 

「……嫌じゃないよ」

 

そう答えた瞬間
自分でもわかるくらい
頬がじわっと熱くなった

 

赤くなるのが止められなくて
視線も自然に少しだけ下を向いてしまう

 

 

その私を
涼真くんが静かに見てた

 

一瞬だけ
彼の視線が柔らかく揺れたのが分かった

 

ほんのわずかに
喉仏が上下して

 

──あ…今、少し反応した…?

 

でも涼真くんは
すぐに何事もなかったように軽く息を吐く

 

私はその空気に焦って
慌てて口を動かした

 

「あ、えっと…その……練習だから、ね? だから、えっと…」

 

言い訳みたいに慌てる自分が恥ずかしくなる

 

涼真くんは
そんな私をじっと見つめたまま

 

少しだけ口元を緩めると――

 

「…何動揺してんの。俺のこと、好きになっちゃった?」

 

意地悪そうに囁くように言った

 

ドクンと心臓が跳ねた

 

何も返せなくて
言葉が出てこない

 

思わず黙り込んでしまった私を
涼真くんはじっと見つめ続けてる

 

沈黙がそのまま
図星の答えみたいに流れてしまった

 

すると――

 

「……マジ、かよ…」

 

涼真くんが
ふっと小さく笑いながら呟いた

 

でもその顔は
ほんの少しだけ照れてるように見えた

 

普段の余裕そうな涼真くんと違って
少しだけ素が滲んでる感じ

 

その仕草が
逆にまた私の心臓をドキドキさせた

 

 
< 22 / 39 >

この作品をシェア

pagetop