練習しよっか ―キミとは演技じゃいられない―
 



少しの沈黙が
ふたりの間に流れてた

 

さっきまでの冗談交じりの会話なのに
妙に胸の奥がずっと熱いままだった

 

涼真くんも
どこか静かに私の表情を見つめたまま動かない

 

空気が重たくなるわけじゃなく
___でも

お互い何かを探ってるような微妙な緊張が漂ってた

 

ふいに
涼真くんが静かに声を落とした

 

「なぁ…奈々」

 

「……うん?」

 

「今だけでもいいからさ」

 

一拍置いて
ふっと柔らかく笑う

 

「俺を、好きになったつもりでやれよ」

 



その言葉が
ストンと胸に落ちた

 

ドクンと跳ねた心臓が
喉まで響いてくる

 

「……うん」

 

自然と
小さく頷いてた

 

「役の中じゃ…そうだろ?」

 

「……そう、だね」

 

涼真くんがゆるく息を吐いたあと
低い声で台本のセリフを口に乗せ始めた

 

『ほら…おいで』

 

距離がさらにわずかに縮まる

 

私は緊張で息を止めかけながら
セリフを続けようとする

 

「……」

 

でも___

次のセリフが出てこない

 

すぐ隣で
涼真くんが目線を逸らさずに続ける

 

『もっと近くで感じたい』

 


__その低い声が

まるで役を超えて
本当の涼真くんの言葉みたいに胸に響いてくる

 

体が勝手に反応して
私の肩がふわっと近づいてしまった

 

たった数センチ
唇も触れそうなくらいの距離

 

ドクン、ドクン――

 

もう練習なんだってことも
わからなくなりそうだった
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