キスはボルドーに染めて
 陽菜美の心臓は、今にも飛び出しそうだ。


 ――あぁ、どうしよう……。


 息を止めた陽菜美の唇を、蒼生の唇がわずかにかすめた。

 その時……。

 大きなノック音とともに、ものすごい勢いで扉が開いた。


「遅くなってごめーん! やっと残業から解放されてさぁ……」

 そう言いながら部屋に飛び込んできたのは、やはり杉橋だ。

 杉橋の大きな声が響きわたった瞬間、陽菜美と蒼生はぴたりと動きを止める。

 そして反射的にパッと身体を離した。


「ん……?」

 杉橋は、目に飛び込んできた陽菜美と蒼生の様子に大きく首を傾げると、キョトンとした顔で二人を交互に見ている。

「えっと……」

 陽菜美はもじもじしながら髪に手を当てると、ふと隣の蒼生を見上げた。

 蒼生はというと、明らかに不服そうに腰に手を当てながら杉橋を睨みつけている。


「あ、あの、ええっと……」

 この場をどうにか取り繕わなければと、陽菜美が口を開いた時、しばらく首をひねっていた杉橋が、突然ずさっと大きくのけ反った。
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