キスはボルドーに染めて
 ――そうだ、この人は私の背中を押してくれたんだ。


 陽菜美はぐっと両手に力を込めると、助手席の扉を開く。

 そして車から降りると、勢いよくドアをバタンと閉めた。

 陽菜美は少ない荷物を手に歩道まで渡ると、男性に向かって大きく頭を下げる。


「本当にご迷惑をおかけしました。でも、あなたに出会って救われました。これで明日から、また前が向けそうです」

 陽菜美の言葉に、男性は満足そうにうなずくと、開いた窓から軽く手を差し出した。

 陽菜美は男性の側に寄ると、そっとその手を取る。

 陽菜美の手をきつく握る大きくて広い手は、力強さの中に優しい温もりが感じられた。


「君、名前は?」

 男性の低い声が心に響く。

「……結城陽菜美です」

 陽菜美は遠慮がちに声を出しながら、上目遣いで男性を見つめる。

「結城……陽菜美?」

 すると男性は、何かを思い出そうとするように軽く眉をひそめた。
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