キスはボルドーに染めて
　部屋の中は不自然なほど静まり返っていて、叫びだしたくなるほどの息苦しさだ。

「蒼生、そちらのお嬢さんは？」

　しばらくして父親が落ち着いた口調で声を出す。

　蒼生は陽菜美の手を引くと、父親の前に立った。


「私が今、お付き合いしている結城陽菜美さんです。ＯＴＯＷｉｎｅで一緒に働いています」

　蒼生の声に、父親は「ほぉ」と静かに声を出す。

「蒼生にそんな女性がいたとはな。ただ……これから話す内容は、彼女には少々酷なんじゃないだろうか？　私はね、お前と一輝、そして純玲さんを引き合わせること自体も反対だったのだよ」

　目を細める父親を見て、蒼生は一歩前へ出る。


「それは彼女とも承知の上で、ここへ来ました。そしてもう一つ、今日は私からもお話したいことがあります」

　蒼生がそう言った時、一輝が「ふん」と大きく鼻を鳴らした。

「蒼生の図々しさは昔から変わらないな。お前は自分がしたことの、罪の重さを全くわかってないんだ！」

　荒々しく声を上げる一輝に、蒼生は静かに視線を送る。

　すると一輝は逆上するように肩を怒らせた。
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