キスはボルドーに染めて
「えっと、蒼生さんのスケジュールは、今朝は取引先に寄ってから出社って言ってたよね」

 陽菜美はスケジュール帳をパラパラとめくると、今日の蒼生の予定を目線で追った。

 これは他部署から、蒼生の所在を聞かれたときに戸惑わないためのもので、いわばカモフラージュのために把握している。

 どうもあの後聞いた話によると、蒼生は人事部に、陽菜美を秘書として採用したと報告したようなのだ。


「今までも何人か、部署に人を入れようと思ったことはある。でも、ことごとく弾かれるんだよなぁ。誰がNG出したんだか、怪しいもんだ」

 陽菜美は蒼生が笑いながら話していたことを思い出す。


 ――社内では厄介者扱いされて、さらに人を採用しようとすると邪魔されるって、どういうことなの!?


 その話を聞いた時、陽菜美はこの会社はいわゆるブラック企業なのではないかと不安になったものだ。

 その点、スケジュール等管理のための秘書という名目であれば、きっと邪魔は入らないというのが蒼生の判断だった。
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