キスはボルドーに染めて
　――何年に造られたものかが、はっきりとわかっている。それってアピールにならないかな……？


　そう思い立った陽菜美は、商品部や営業部など、手あたり次第に他部署の社員たちに意見を聞いて回った。

　突然の陽菜美の訪問に、皆初めは迷惑そうだったが、陽菜美の真剣な姿勢が伝わったのか、次第に親身になって話を聞いてくれるようになった。

　そしてしまいには数人の女性社員たちが名乗り出て、ここに集まってくれたのだ。


　――今まで挨拶すら、まともにできなかったのに……。


　陽菜美がしみじみと皆のありがたみを感じていた時、輪の中の一人が顔を上げた。


「ねぇねぇ、結城さん。蒼生さんってさ、実際のところどんな人なの？」

　すると、その声にぴくりと反応した他の社員も一斉に顔を上げる。

　皆に一度に見つめられ、陽菜美は「えっと……」と少し戸惑いながら声を出した。

「すごく頼りがいがあって、優しい人……ですかね？　あと、ものすごく仕事ができるキレモノだと思います！」

　陽菜美の声に、一斉に全員が「そうなのぉ！？」と叫び声を上げる。

　きゃあきゃあ騒ぐ皆を見ながら、陽菜美は不思議そうに首を傾げた。
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