キスはボルドーに染めて
 陽菜美は美智世の話を思い出した。

 蒼生は親会社を追い出され、美智世がしかたなくOTOWineに入社させたと言っていたはずだ。


 ――三年前……蒼生さんに、何があったっていうの……?


 すると急にシーンと静かになった室内に、カチャリと扉の開く音が響き渡った。

 ドキッとして皆が一斉に振り返った目線の先には、やはり同じように驚いた顔をした蒼生が立っている。


「これは一体……何の騒ぎだ……?」

 蒼生は戸惑いを隠しきれない様子で声を出す。

「蒼生さん、おかえりなさい!」

 陽菜美は慌てて立ち上がると、蒼生の元に駆け寄った。


「えっと、新規企画の件で、別の案が思いついて。ちょっと皆さんにお話を伺ってた所なんです」

 陽菜美がそう言って振り返ると、皆も一斉に音を立てながらパッと立ち上がる。

「別の案? 診断アプリ以外ってことか?」

「そうなんです。ただ、私にもわからないことが多くて。それで色々と他部署を回って話を聞いていたら、皆さんが協力するって言って、集まってくださって」

 陽菜美はそこまで言うと、うつむきながら口を閉じた。


 ――勝手なことをして、蒼生さんは怒るかも知れない……。
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